2023年10月11日水曜日

恒例の美術カレンダー

                     
 いわき市平にギャラリー界隈があったころ、11月に開かれる画家峰丘の個展は、年末が近いことを告げる“風物詩”でもあった。

 オープニングパーティーには、かなりの人が集まる。いわば、ちょっと早い大忘年会だ。1年ぶりに再会する知人が多かった。

 その後、個展の会場は好間町にある龍雲寺の「禅ホール」に替わる。今年(2023年)も10月8日に同ホールで個展が始まった。18日まで。

 初日は日曜日。夏井川渓谷の隠居で土いじりをし、途中、1カ所、寄り道をしてから会場を訪れた。

恒例のオープニングパーティーはなくなったものの、毎年発行する自作品の美術カレンダーは今回も出来上がっていた=写真。

「手帳を買わねば……」。いつもよりは早めながら、来年の美術カレンダーを手にして、やはり年末が近いことを実感した。

今回のテーマも、これまでと変わらない。「峰丘と花 そして深海魚」。峰は若いとき、メキシコで絵の修業をした。メキシコ流の極彩色を基調に、生と死、あるいは深海魚のアンコウを通じて原発事故への怒りを描く。随所に飾られた生け花と絵とが静かに響き合っていた。

峰とは同年齢だ。彼の説明を聞いて、後期高齢者なりの死生観が作品に反映されるようになったことを知る。

暗色のハスと三日月を描いた小品に引かれた。花が散って、実を宿した花托だけのハスの向こうに、小さく三日月が浮かんでいる。

日が沈んで夜のとばりが降りてきたころの静謐感をたたえた、今までになかったような作品だ。

 懐かしい作品にも“再会”した。たなびく雲の中からドラゴンが現れる絵が、別室の壁にかかっている。龍と雲、まさに寺の名前を象徴する作品だ。

 たまたま、ケイト・スティーヴンソン/大槻敦子訳『中世ヨーロッパ「勇者」の日常生活――日々の冒険(クエスト)からドラゴンとの「戦い」まで』(原書房、2023年)を読んだばかりだった。

ヨーロッパ文化圏では、ドラゴンは「悪」の象徴とされている。その姿も、爬虫類のようなうろこに覆われ、角を生やし、コウモリのような飛膜の翼を広げて炎の息を吐く、巨大なトカゲのような怪物として描かれる。

それに比べたらアジアの竜はめでたい動物だという。蛇に似た体に4本の足、2本の角とひげを持ち、海中にすんで空に昇り、雲をおこして雨を降らせる。峰のドラゴンも、アジア流でどこかユーモラスでカラフルだ。

 それと、もう一つ。龍雲寺へ来たからには、訪ねたい墓があった。案内の立て札がある。

 墓地の裏手の高台は、三野混沌(本名・吉野義也=詩人)とせい(作家)夫妻が開墾に励んだ菊竹山だ。

吉野家の墓が同寺にある。何年ぶりかで墓前に立った。『洟をたらした神』の注釈づくりはあまり進んでいない。黙礼しながら、「よし」と気合を入れる。

0 件のコメント: