2023年10月6日金曜日

水が牙をむいた

        
 令和元(2019)年10月の台風19号では、夏井川と支流の好間川、新川などがはんらんし、平・平窪を中心に好間、内郷などで大きな被害が出た。

その4カ月後、自主防災組織と防災士の合同研修会で報告された被害状況によると、9人が亡くなり、5669棟の住家が全壊~一部損壊し、ざっと7000世帯1万人が被災した。これに公共施設や農作物などを加えた被害総額は379億5000万円に及んだ。

今年(2023年)9月8日には台風13号に伴う線状降水帯が大雨をもたらし、主に新川流域の内郷地区で床上・床下浸水が相次いだ。

 本流の夏井川左岸域に住んでいる。同8日には日付が替わるまで、ネットで平・鎌田や中神谷、小川町の同川の水位をリアルタイムで確かめ続けた。

 そのころ、内郷の宮町、白水町などでは身近な小河川がはんらんし、住宅地を濁流が襲った。

 地図を見ると、おおむね小丘陵のふもとに住宅が連なる。その間を白水川(新川)や宮川(新川支流)が流れる。

 これらの川に架かる小さな橋にごみがひっかかり、流れがせき止められてはんらんした――テレビが伝える水害のニュースを見ながら、「川の3作用」に思いが巡った。

川の堤防は水のはんらんを防ぎ、人間の生命と財産を守るために設けられる。それで、人間の住む側は堤内、川のある側は堤外と呼ぶ。

堤外には流水が運んできた土砂が堆積する。堆積するだけでなく、岸がえぐられて土砂が流されもする。川の3作用=浸食・運搬・堆積は絶えずどこかで繰り返されている。その3作用が堤内=住宅地にまで広がり、床上・床下浸水が相次いだ。

 白水町に建築物では福島県内唯一の国宝、白水阿弥陀堂がある。北と東西の三方を山に囲まれ、「心字の池」をはさんで、南方に白水川が西から東に流れる。こうした景観は、風水思想で「蔵風得水」といわれる。

昔、ここで「いわき時代まつり」が開かれた。見物客として訪れ、境内から南方を見たとき、なぜか母親の子宮の中にいるような安らぎを感じた。浄土の庭園とはこれなんだと納得した。

 その阿弥陀堂が床上浸水をした。境内も、池もむろん水没した。その様子を伝えるメディアの映像に心が痛んだ。

 復旧事業はかなりの予算と期間を要するのではないか。とりわけ、池に流入した土砂の除去にはてこずるにちがいない。

 わが生活圏(平・中神谷)を流れる夏井川は、右岸の堤防で4年前の水害の強じん化工事が行われている。左岸のサイクリングロードはこの9月の大水で一部、土砂が堆積し、ごみが漂着した=写真。

 川の3作用は自然の科学にとどまらない。人間に恩恵をもたらす一方、時に人間を脅かす牙にもなる。

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