2024年2月10日土曜日

見事なズングリ

                               
   夏井川渓谷の隠居の庭では、三春ネギのほかに辛み大根をつくっている。「つくっている」というよりは、勝手に生えてくるのを「見守っている」といった方が早い。

いわき語に「ふっつぇ」という言葉がある。「どこからともなく種が飛んできて、知らぬ間に自然に生えること」(いわき市教委編『いわきの方言調査報告書』2003年)をいう。

自然に生える「ふっつぇ」には違いないが、「どこからともなく」ではなく、出どころははっきりしている。

震災と原発事故のあと、知人から辛み大根の種をもらった。さやに入っているので、最初はそれを割って、小さく赤黒い種を取り出し、月遅れ盆のころにまいた。

冬に掘り残した株は春に花が咲き、さやをまとって結実する。それも収穫して保存し、月遅れ盆のころ、同じようにしてまいた。

ところが、取り残してこぼれ落ちたさやがいっぱいあった。これが初秋になると発芽した。

さやを割って種を取り出さなくても、時期がくると種がさやを破って(さやが自然に破けて?)発芽するのだと知った。

それからはますます手抜きに拍車がかかった。辛み大根が生えるエリアは耕さない。耕すと根にストレスがかからず、針のように細く長い大根になってしまう。ズングリにするには不耕起、つまり耕さずに放っておくのが一番と知った。

手を加えるとすれば、発芽したあとに周りの草をむしって日当たりをよくする、たまにパラッと肥料をまくくらいだ。種をまくのもやめた。

早いと11月には直径5センチ、長さ15センチほどの「ズングリ」が収穫できる。大根おろしにすると辛い。放置しても、この辛みが味わえる。手抜き人間にはもってこいの野菜だ。

ところが、やはり植物である。去年(2023年)は普通の大根のように太く長いのが生えた。

冬に掘り取って食べると……。辛みに強弱がある。どちらかというと、辛みが弱い。もしかして、交雑した?

大根はアブラナ科だ。アブラナ科の植物は交雑しやすい、とネットにあった。いつの間にか身近なアブラナ科のものと交配して、形質が変わってしまったか。

普通の大根との交雑だったかもしれない。種もまかないのに長い大根が採れたワケが推測できた。

さて、この冬の辛み大根はどうか。一番大きく葉を広げ、冬の寒さの中でかじかんできたところを引っこ抜くと、見事なズングリだった=写真(右側)。

同じところに生え出ていたのは、立派な葉にさえぎられて育ちが悪かったようだが、これもそれなりに辛みが強かった。

会津・三島の辛み大根がルーツだ。ここの大根に似て、根元がふくれて急に細くなる。径は7センチ、長さは15センチほどあった。

辛み大根本来の形状で、揚げ物に、そばに、吸い物に辛み大根をおろしてのせたのが出てきた。七色唐辛子とは別の辛みが新鮮だった。「冬期間限定」の味をしばらくは楽しめそうだ。

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