2024年2月20日火曜日

近世の「常磐もの」

                     
 「常磐もの」という言葉がある。市のホームページにその「定義」が載る。古くから海の恵みを大切にし、食文化として育ててきたいわき市の水産物と水産関係者の総称だという。

 震災前、築地市場の水産関係者の間で、いわきの水産物は「常磐もの」として高く評価されていた。地元の水産関係者もその言葉に誇りを持ち、大事にしてきた。

そこで市は、「常磐もの」をキーワードにプロモーション事業を展開し、市内水産物の認知度向上と消費拡大を進めることにした、というわけだ。

江戸時代も磐城の水産物は名産として知られていた。それについては、いわき地域学會がかつて、市から受託してまとめた『いわき市伝統郷土食調査報告書』に詳しい。

同書は、故佐藤孝徳さん(江名)が中心になって調査をし、研究仲間の小野一雄さん(小名浜)も執筆に加わった。私は編集・校正を担当した。

地域学會の第381回市民講座が土曜日(2月17日)、市文化センターで開かれた。会員で市文化財保護審議会委員の渡辺文久さんが「近世磐城の『常磐もの』」と題して話した=写真。

「内からの視点」として、江戸時代の文献である「磐城風土記」「磐城枕友(まくらのとも)」「陸奥国磐城名勝略記」などに出てくる産物を、「外からの視点」として、「武鑑」に載せられた磐城の産物を紹介した。

『伝統郷土食調査報告書』の「古記録にみるいわきの食素材」と重なるところがある。口語訳も付けているので、わかりやすかった。以下、出典を省略して、口語訳を引用する。

カツオについては陰暦5~9月、漁船が競い集まり、その数を知らないほどで、多くは他国から漁業に来ている。

磐城平城下へは、小名浜・四倉から毎日、魚が送られてくる。値段は安くておいしい。

たとえば、タイ。70センチ余のものが銭30~40文で買うことができた。講師によると、江戸ではそばが一杯16文の時代だ。とにかく安い。

カツオやカナガシラ、ヒラメ、アンコウ、イワシの類ははなはだ多いので、山のように積んである。

 塩ガツオ(塩ザケと同じ)は磐城第一の名産。鰹節もある。カツオの「あまわた」は塩辛に。

 ほかにも、ウニの貝焼きはもっとも甘美と、江戸時代から名物だったことが知られる。

 「武鑑」には「時献上」という項目がある。各藩が季節ごとに幕府に献上した品物をいう。

平・泉・湯長谷の磐城三藩には、マス・マンボウ・サケ・アンコウ・タラ・キジ・塩ザケ・マンボウの粕漬けなどがあった。

前述の佐藤家で浜料理をごちそうになったことがある。まず出てきたのが、タイ、アイナメの刺し身とカツオの塩辛。次に、アイナメの煮物とアワビ、カツオの刺し身。締めは、アワビと貝焼きウニの炊き込みご飯、塩味のタイのあら汁だった。

多彩で豪華ないわきの浜の食文化を体験する、またとない機会だった。

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