これはまさに日本の環境文学(ネイチャーライティング)だろう。深澤遊『枯木ワンダーランド――枯死木がつなぐ虫・菌・動物と森林生態系』(築地書館、2023年)=写真=を読んでそう思った。
サブタイトルにもあるように、枯死木をめぐる森林の生態を一般向けに分かりやすく書いた本だ。
著者は信州大学生のとき、講義で菌根菌を知り、それまで通っていた植物社会学の研究室からキノコの研究室に鞍替えをする。その後、京都大学大学院農学部研究科を修了する。
本を出したときは東北大学の大学院助教だったが、現在は森林生態学が専門の准教授として、木材腐朽菌と枯木を中心にした研究を続けているようだ。
拙ブログでちょっと前にスザンヌ・シマード『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』と、ロビン・ウォール・キマラー『コケの自然誌』を取り上げた。
シマードは菌根菌ネットワークを研究するカナダの森林生態学者、キマラ―はネイティブアメリカンの植物学者で、2人とも『枯木ワンダーランド』に登場する。
それもあって、枯木をテーマにしたこの本を、シマードらと根っこを同じくする環境文学として読んだ。
とりわけリグニンと木材腐朽菌、そして温暖化の影響で大規模な山火事の頻度が増しているという話には、ページをめくる指が止まった。
地球の歴史の中で石炭紀があった。植物の体はリグニンなどによって堅固につくられているが、それを分解する微生物はまだ現れていなかった。
そのため、大森林を構成していた巨木が倒れ、湿地に埋まり、土中深く積み重なって、石炭ができた。
やがてリグニンを分解する担子菌(白色腐朽菌と呼ばれるグループ)が登場すると、石炭も消えた。
しかしこの仮説は、現在では疑わしいと考えられている、と著者はいう。理由は、石炭紀にはすでにリグニン分解菌がいたらしいこと、リグニン由来の石炭は70%程度であること、石炭紀以降も有機物の大量蓄積が何度もあったこと、などによる。
専門家の間でも見解が分かれている。そのことを頭に入れておく。簡単に「これでなければあれ」ときめつけない、ということだろう。
山火事の話は、ちょうどロサンゼルスで住宅街を焼く大規模な森林火災が発生し、甚大な被害が出ていることもあって、読み飛ばせなかった。
「湿潤な日本では大規模な山火事の脅威を感じることはあまり多くないが、カナダやアメリカでの山火事のニュースで、街に迫った山火事の影響で昼間にもかかわらず街が暗く空が赤い光景を見ると、山火事を防ごうという心理は当然のように思う」
その自衛策として、カナダやアメリカ、北欧の自然公園では、林床にたまった落葉や落枝を取り除くために、定期的に火入れをしているという。
今度の山火事報道で知ったのだが、森林火災は二酸化炭素放出=気温上昇を招くため、気候変動の悪循環をもたらす。もはや「対岸の山火事」ではない。
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