2017年7月24日月曜日

人を“刺す”アカタテハ

「蝶のように舞い、蜂のように刺す」といったのは、ボクシングの元世界チャンピオン、故モハメド・アリ。蝶も刺すのではないか――そんな思いをいだくような体験をした。
 この時期、夏井川渓谷の隠居で土いじりをするには、早朝5時ごろに起きて出かける(のがいいのだが)。ハマではすでに朝日が昇っている。渓谷では尾根が壁になっているから、太陽が顔を出すのは少し遅い。「天日燦(さん)として焼くがごとし」(三野混沌)になる前に、土いじりを終えねばならない。焼けつくような太陽の下で草むしりをしていると、熱中症になりかねないからだ。

 実際には、渓谷に着くのは早くて7時半から8時。すでに太陽が尾根から顔を出している。キュウリとナスを摘み、追肥をして土を寄せるだけで汗だくになる。小一時間もしたらさっさと作業を終える。あとは隠居で朝食をとって、ひたすらゴロンとしている。

 室内でほてりを冷ましていると、いろんな“訪問客”が現れる。平地のわが家と違って、渓谷には清流生まれのアブがいる。これがいつの間にかやって来て、チクリとやる。何年か前までは、軒下にスズメバチが営巣した。

 先日は、キツツキの仲間のアカゲラが突然、飛び込んで来て床の間の壁にぶつかり、激しく鳴いた。これには肝を冷やした。わずか2メートルほどのところで、「キョ、キョ、キョ、キョ」とやられて耳がおかしくなった。アカゲラはそのあと廊下へ回り、やがて外へ脱出した。

 その直後、今度は蝶のアカタテハが現れ、隠居を出たり入ったりしているうちに私の膝頭に止まった=写真。静かにしていると、口吻をストロー状にのばして皮膚をチョンチョンやる。花ではないから蜜はないが、汗をかいたあとなので塩分はあったらしい。それを吸ったのだろうか。

 チョンチョンとやられて初めてわかった。吸蜜といっても、皮膚の表面に「触れて吸う」のではなく、「突ついて(刺して)吸う」のだ。かすかに痛みを感じた。花だって命をつなぐために痛みをこらえているのかもしれない。

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