いわき総合図書館の新刊コーナーに、四方田犬彦著『台湾の歓び』(岩波書店)があった=写真。さっそく借りて読み始めたらおもしろい。300ページ余を一気に走り読みした。
著者は2013年秋から翌年春まで、2つの大学の客員教授として台湾に滞在した。比較文学者・映画史家らしく、台湾の映画監督や詩人、作家らと対話し、「進香」といわれる道教の巡礼に加わった記録などを収めている。
なかでも、中学校の先生をしながら小説を書いている宋澤莱(1952年~)と、彼が1985年に発表した作品『廢墟台湾』に強い印象を受けた。『廢墟台湾』は「大地震によって3機あった原子力発電所が同時に爆発し、外に洩れた放射能に被爆した20万人の人間が死亡したのは、2000年だった」。そんなことを想定して描かれた近未来SF小説だそうだ。
チェルノブイリ原発事故が起きるのは、この小説が発表された翌1986年4月。長らく絶版だったのが、2011年3月の日本の原発事故を機に、「恐るべくも予言的な作品」として2013年に再刊され、大きな話題を呼んだという。日本語に翻訳されていないか、図書館にないか――チェックしたが、なかった。まだまだ日本では知られていないらしい。
作家のイマジネーションが生み出したディストピア(反ユートピア)の世界。現実には、1Fは偶然にもそうなる前にブレーキがかかった。それこそ、ディストピアの世界にまで原子炉が暴走する可能性があった。
ネットで『廢墟台湾』の情報を探っていたら、東日本大震災から4年がたつのを機に、3月14日、台北や高雄などで第4の原発建設中止を求める大規模デモが行われた、というニュースに出合った。3・11は、台湾人にとってもヒトゴトではなかった。
ついでながら、著者は台湾滞在中に遭遇した学生による立法院占拠事件にも一章をもうけている。著者は知人教授とともに立法院内部に入り、指導者と対話し、退去の場にも立ち会ったという。学生たちは「東大安田講堂」のときと違って、いっさい破壊をせず、整然と、秩序立って行動した。
台湾人の心のうちを知りたい、それには小説を読むのが一番。そう思っている。日本人の作品と台湾人の翻訳作品を、きのう(3月17日)、図書館から借りてきた。
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