夏キノコのチチタケは、そのまま刻んで味噌汁に入れてもボソボソしてうまくない。ところが、栃木県ではチチタケがマツタケ以上に珍重される。「ちたけうどん」「ちたけそば」にして食べるのだという。なぜまずいキノコが、だれもが焦がれる味になるのか――。
インターネットが普及する前、いわきキノコ同好会の仲間が栃木県へ出かけて、ちたけうどんを食べながら“秘密”を探った。秘密なんてなかった。まずは油で炒める。それだけだった。今はネット上に作り方があふれている。
チチタケを細かく裂いて、刻んだナスと一緒に中華鍋で炒め、醤油で濃い目に味付けをする。そのあと、水を足して煮る。みりんや酒、砂糖を入れ、さらに醤油で味を調える。これで基本のスープができあがる。大根やニンジンが入れば、けんちん風味になる。
油で炒めることでチチタケのうまみ成分が発揮される。チチタケ自身がいい出汁(だし)を出す。なぜそうなるのかは専門家に聞くしかない。が、炒める・炒めない、で味が激変する。同好会の仲間に、あっという間にちたけうどんの調理法が広まった。
去年(2016年)夏、ロシアのサハリン(樺太)とシベリア大陸(ウラジオストク・ナホトカ)を旅した。あすは帰国という晩、ウラジオの街で夕食をとった。キノコスープが出てきた。マッシュルームが主体らしかったが、ちたけうどんのスープに似た味だった。
それよりずっと前、“孫”の母親がカナダ人女性を連れて来たことがある。たまたまチチタケを採り、スープをつくっておいたので、ちたけうどんを振る舞った。「ジャパニーズヌードル」に舌鼓を打った。少なくとも、ちたけうどんは国境を超える味のようだ。
ところが、原発事故以来、これを口にしたことがない。調理法を忘れてしまいそうだ。というわけで、先日、チチタケ2個でつくってみた。手元にあったナス1個を使っただけで、酒・みりん、大根・ニンジンなどは省略した。熱々のつけ麺にして、ミョウガを散らした=写真。十分にちたけうどんのスープの味だった。
野生キノコは依然、摂取も出荷もできない。キノコの食文化を残すためにも、作り方だけはときどきおさらいしておかないと――。
0 件のコメント:
コメントを投稿