その空の下には中平窪の田んぼが広がる。1枚の田んぼにハクチョウがひしめいていた=写真上。奥に横たわるのは標高735メートルの水石山。5日前の1月22日、山頂の公園駐車場で車の中からいわき市内の母子4人の遺体が見つかった。110番通報をした男も運転席でけがをしていた。警察は男の回復を待って殺人の疑いで事情を聴くという。
いわき市の、おおよそ北半分を占める夏井川流域には、ハクチョウの越冬地が3カ所ある。飛来歴の古い順からいうと、平・平窪、同・塩、小川・三島の夏井川で、数としては平窪が最も多い。
平窪には「夏井川白鳥を守る会」がある。鳥インフルエンザが問題になってからは、えづけを中止した。ハクチョウは、日中は中平窪、あるいは左岸の平・赤井の田んぼで二番穂などをついばんでいる。一部はさらに、下流の塩と上流の三島を行き来し、そこからまた周辺の田んぼへと分散して、えさをついばんでいるのではないだろうか。
平窪地区は台風19号で大きな被害を受けた。冠水したあと、稲刈りが放棄された田んぼが何枚かある。
隠居の帰りに再び平窪の田んぼ道を通ると、朝とは道路をはさんだ反対側の田んぼに、やはりハクチョウが集団で羽を休めていた。朝と同じ集団かどうかはわからない。そばに刈られずに残った稲穂が枯れて倒れている=写真下。ハクチョウには、稲穂のじゅうたんは今すぐにでも卵を産み落としたくなる産座のようなものだろう。今まで見たことのないシュールな光景ではある。
目の前には刈られずに残った稲穂の田んぼ、遠くには水石山。若山牧水の「白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」が胸の底のあたりをよぎる。白鳥は悲しからずや、水石山は悲しからずや、稲穂は悲しからずや――。
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