2017年9月13日水曜日

9秒98の余韻

 日本スポーツ史というより、日本史の画期をなす“事件”という思いが強い。今も勝手に余韻にひたっている。新聞記事=写真=を読み返し、テレビの番組を欠かさず見る。
 東洋大の桐生祥秀(よしひで)選手(21)が陸上男子100メートルで、日本人で初めて「10秒の壁」を破り、9秒98を出した。ニュースに接した瞬間、世の中が花畑になったように感じた。

 トップアスリートにとっては、100メートル「10秒の壁」はわずか数十センチでしかない。日本人にはこの数十センチの壁が厚かった。

 桐生選手は高校3年で10秒01を出し、一躍脚光を浴びた。大学入学後は、しかし低迷した。ライバルが次々に現れた。大学最後のレース(日本学生対校選手権=インカレ)で目標の大記録が生まれた。

 私事だが、開校して3年目の平(現・福島)高専に入った。バレーボール部から陸上部に転じ、主に走り幅跳びと400メートル、1600メートルリレーを練習した。100メートル10秒台が一流だとしたら、二流の11秒台にも届かない、三流のランナーだった。

 入学した年に東京オリンピックが開かれた。そのころ、日本の100メートルランナーといえば飯島秀雄。陸上部に入ってからは、同時代の飯島(10秒1)、歴史的には吉岡隆徳(10秒3)があこがれになった。飯島は「ロケットスタート」、吉岡は「暁の超特急」の異名をとった。当時はまだ手動計時だった。飯島の10秒1も、電気計時なら10秒10~19の間のどれか、ということになる。
 
 それから半世紀。福島県内の高校生も100メートルを10秒台で駆け抜けるようになった。
 
 元三流ランナーがひそかに期待していることがある。これも私事だが、小2の孫が、素質としては三流を越えているように思えるのだ。保育園でのかけっこのとき、陸上選手のように前傾して飛び出し、腕も前後によく振れていた。小学校に入った今は、学年で一番か二番だとか。
 
 桐生選手の9秒98は、きっと陸上短距離界のすそ野を広げるにちがいない。今は2歳上の兄と水泳・サッカーを楽しんでいる孫だが、じいバカとしてはいずれ陸上競技に進んでほしい――そう思っている。

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