2017年9月2日土曜日

まかぬ種から生えた

 夏井川渓谷にある隠居の庭で辛み大根を栽培している。月遅れ盆には種をまく、というのはおととし(2015年)までのこと。今年も種をまかずに発芽させることにした。結論からいうと、大成功。見事な双葉のじゅうたんができた=写真。
 辛み大根には自分で再生する力がある。手抜きをしたために辛み大根の野性に気づいた。おととし、去年、そして今年と、手抜きの度合いを高めてみたら、ちゃんと野性の力でこたえてくれた。

 越冬した辛み大根は、春に花が咲き、実(さや)がなる。さやには種が眠っている。おととしまではさやを収穫・保存し、月遅れ盆が来たらさやを割って赤い種を取り出し、ていねいにも畝を耕して点まきにした。すると、細くて長い大根ができた。辛み大根は食べてもまずい。辛さを生かして大根おろしに利用する。細長(ほそなが)では大根おろしにもならない。土を耕したのが裏目に出た。
 
 去年もさやを収穫した。が、取り落としたさやがあったのか、盆上がりに種をまこうとしたら、すでに10株ばかり双葉が出ていた。さやのままでも芽を出すのだ! 種をまくのをやめて、双葉の生長を見守った。11月に直径5センチ、長さ15センチほどの「ずんぐりむっくり」型を初収穫した。師走に入るとさらに肥大した。大根おろしにすると辛かった。これをつくりたかったのだ。
 
 で、今年はさらに手抜きをして、さやをそのままにしておいた。ほっとけば、そのスペース全体が辛み大根の双葉でいっぱいになるのではないか。お盆上がりに立ち枯れた茎を引っこ抜き、草を刈り払って日光が当たるようにした。それから半月。思惑どおりに双葉が続々とあらわれた。

 人間が手を加えるとすれば、草刈り、追肥・石灰散布、間引きくらい。今年は連作を避けるため、芽生えた双葉を10株ほど別の場所に移し替えてみようかと思っている。それがうまくいけば、いわゆる自然農法のひとつ、不耕起栽培が実現する。

 体力が落ちて、鍬より「畑おこすべ~」(スコップとスキを合体させたようなもので、握りその他はアルミ製、5本ある刃は鉄製で焼きが入っている。足で刃を突き刺し、グイッとやる)を使うことが多くなった人間には、手のかからない辛み大根は特にいとおしい。ポット苗にしてほしい人に分けようか、いやいや売ろうか――なんて考えたが、やめた。
 
 もとは会津産の辛み大根だ。震災翌年の2012年夏。豊間で津波被害に遭い、内陸部の借り上げ住宅で家庭菜園に精を出す知人から送られてきた。その後、隠居の庭が全面除染され、一時、栽培を休んだ。

 栽培を再開してからは、三春ネギ同様、辛み大根も「自産自消」でいこうと決めた。「自産」といっても、実際は辛み大根そのものの再生力を利用するだけ。山形県鶴岡市の「温海かぶ」は焼き畑農業で生産されている。山の斜面を焼いて、灰が熱いうちに種をまく。それだけだという。草こそ焼かないが、辛み大根の栽培もそれに近い。いよいよ辛み大根がおもしろくなってきた。

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