斉藤さんは、同市小川町に工房を構えていた刺繍(ししゅう)工芸家望月真理さんの教え子の一人で、インドの刺繍「カンタ」などの技法による自作品と、現地で購入した作品などを展示している。
たまたまきのう(7月25日)朝、知人がフェイスブックに展覧会の写真をアップしていた。壁にバングラデシュの伝統刺繍「ノクシカタ」らしいカバーが掛かっている。カミサンに教えると「行きたい」というので、昼食後、いつものように運転手を務めた。
ギャラリーの入り口ドアに、「カンタとの出会い」と題する斉藤さんのあいさつ文が張られていた。望月さんとの出会い、望月さんのカンタへの思いなどを紹介したあと、望月さんとともにインド、中国、カンボジア、タイ、韓国へ研修旅行に出かけた思い出などがつづられている。
「本物を見なさい、本を読みなさい」が望月さんの口癖。そうして現地で、本物のカンタや少数民族の生活などを目の当たりにして、ワクワク、ドキドキ、楽しかった、と斎藤さんは振り返る。
拙ブログによれば、同ギャラリーで2008年冬、「望月真理・刺繍教室展――布に遊ぶ・アジアに遊ぶ」が開かれた。たぶんそのときだったと思う。「赤いちゃんちゃんこよりは黒い半纏(はんてん)がいい」といって、還暦の記念に望月さんの作品を購入した=写真。タイの少数民族の衣装をアレンジしたものだった。「半纏を着て街を歩く男はかっこいい」。望月さんに持ち上げられて買う気になった記憶がある。
それから4年後、望月さんから家に電話がかかってきた(以下は拙ブログから)。たまたま私が出た。「男性から頼まれて半纏をつくっているけど、袖口が気になって。試着してくれないか」。望月さんが持ってきた制作途中の半纏に袖を通す。望月さんの目の色が変わる。私から見ても袖口が広すぎる。そのことを言うと、納得して待ち針を刺した。
望月さんはアジアの少数民族の刺繍コレクターでもある。インド、バングラデシュ、ベトナム……。そのへんを踏まえてベトナムの話を聴いた。ベトナムには8回も行っているという。「10回は行きたいが、足が(悪くて)ねぇ」
このとき、ベトナムに絞ったのは、同級生と“修学旅行”に出かける直前だったからだ。カンボジアにも行くと言ったら、「アンコールワットね」。観光旅行であることを見透かすように切り返された。刺繍を求めて、地を這うようにアジアの山岳に分け入ってきた望月さんにとっては、定番のパック旅行など、お気軽な、旅ともいえない移動でしかなかったのだろう。
辛辣(しんらつ)だがユーモラス、80歳代ながら、ときに少女のように純粋で率直。水、食べ物、織物、市場、屋台……。旅のベテランからたっぷり1時間、ベトナム文化について貴重な情報を得ることができた(それから8年、ということは、現在90ン歳か)
さて、同ギャラリーもコロナ問題と無縁ではなかった。3カ月も休業を余儀なくされた。7月上旬に再開したばかりだという。店主と、12年前の「黒い半纏」の話になった。袖口の折り返しはぼろぼろだが、今も秋にはこの半纏を着る。きのう、カミサンが見たら、長梅雨でカビが生えていた。
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