2020年7月29日水曜日

シャクナゲ増殖10年計画

夏井川渓谷の隠居へ行くたびに、なにかしら“発見”がある。道端でヤマユリが咲き出した、庭にアミガサタケが生えた、上空をオオタカが旋回している……。絶えず流動してやまない自然の営み、というより自然と人間のかかわりが生み出した変化に驚く感性(センス・オブ・ワンダー)は、まだ残っているようだ。
隠居は戸数9軒ほどの小集落の一角にある。日曜日(7月26日)、山際に住むKさんの案内でKさんの家の裏山を見た。杉林だが、間伐して林内が明るくなっていた。そこにシャクナゲの苗木を植え始めた=写真上1。「シャクナゲ増殖10年計画」だという。薄暗い杉の林内をシャクナゲの花で明るくする――そんな決意を軽く口にする。

もう12年前になる。隠居の隣にある古い家を所有者のTさんが解体し、谷側の杉林も伐採して展望台をつくった。すると次は、山側、県道小野四倉線とJR磐越東線の間に植えられた杉の苗木を、所有者のKさんが伐採した。マイカー族も、列車の乗客も杉林に邪魔されることなく景観を楽しめる。

自然景観と環境に対する土地所有者の考え・行動がなにか新しいステージに入ったように思ったものだ。その延長で、今度はシャクナゲ増殖作戦が始まった。

夏井川渓谷は春のアカヤシオから始まり、初夏にはシロヤシオ、トウゴクミツバツツジ、ヤマツツジなどが咲く。集落の裏山の頂きには、伐採されていなければ天然記念物に指定されてもいいようなシロヤシオの古木がある。

シャクナゲ増殖作戦の“現場”を見て、阿武隈高地の主峰・大滝根山(1193メートル)を思い出した。山頂北西部にシロヤシオが群生し、その樹下にアズマシャクナゲの海が広がる。劇作家の故田中澄江さんが『花の百名山』で紹介している。ちょうど花の時期に、いわきの仲間と登った。「この花の下で死んでもいい」。田中さんが書き記している気持ちがよくわかった。
 さて、苗木がポツン、ポツンと植えられているだけではない。Kさんの家の真裏に当たる一角には、4本の脚をもつ変なオブジェが設けられた=写真上2。「イノシシ威(おど)し」だという。

畑の逆U字型支柱2本を交差して立て、真ん中から殺虫剤の空き缶などを取り付けた一斗缶やヤカンをつるしている。それらはロープで家とつながっている。イノシシが「出たな!」となったら、家からロープを引いてガランガラン音を鳴らす、というわけだ。

渓谷で暮らすということは、日々、自然にはたらきかけ、自然の恵みを受ける、ということだ。その一方で、自然からしっぺ返しをくらうこともある。自然をどうなだめ,畏(おそ)れ、敬いながら、折り合いをつけるか、ということでもある。その折り合いのつけ方が、今回はシャクナゲ増殖計画、イノシシ威しとなってあらわれた。

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