前にお笑いタレント矢部太郎さんが描き下ろした『マンガぼけ日和』を取りあげ、英語では認知症を「ロング・グッドバイ」(長いお別れ)と呼ぶ、ということを紹介した。
ロング・グッドバイに触発されて検索を続けた。まずは中島京子さんの小説『長いお別れ』(文藝春秋、2015年)=写真=がヒットした。実体験を踏まえた小説だという。
『焼け跡のハイヒール』で知られる作家盛田隆二さんも、ノンフィクション作品『父よ、ロング・グッドバイ 男の介護日誌』(双葉社、2016年)を書いていた。
アメリカではアルツハイマー型の認知症を「ロング・グッドバイ」と呼ぶことがある――。盛田さんは中島さんの小説で初めてそれを知ったことを、「まえがき」で明かしている。
となると、「マンガぼけ日和」の次はこの二つの作品だ。どちらも市の総合図書館にあったので、借りて読んだ。
私も、認知症をロング・グッドバイと呼ぶと知ったときには驚いた。認知症を見直さないといけない、とさえ思った。
でも、医学用語としては「ロング・グッドバイ」のはずがない。正式にはなんというのだろう。検索を続け、2冊の本を借りて読んだのも、それを探るためだった。
『長いお別れ』は9編の連作短編集だ。最後の「QOL」にその答えがあった。父親が認知症を発症してだいぶたつ。3人の娘のうち、長女はアメリカで暮らしている。
その次男がミドルスクールに進学した。ところがほどなく、無断欠席をするようになった。さぼって転校生の家に入り浸っていたのだった。
校長先生が転校生の家で遊びほうけていた子どもたちを一人ひとり、校長室で面接することにした。
「なんでもいいから君のことを話してほしい」。校長室にやって来た次男は、10年に及ぶ認知症の末に祖父が2日前に亡くなったことを語った。
それからこんなやりとりが続く。「ずっと病気でした。ええと、いろんなことを忘れる病気で」「認知症(ディメンシア)か」
次男も、読者である私も、認知症を「ディメンシア」ということを初めて知る。そして、そのあとに校長先生が付け加える。
「十年か。長いね。長いお別れ(ロンググッドバイ)だね」「なに?」「『長いお別れ』と呼ぶんだよ、その病気をね。少しずつ記憶を失くして、ゆっくりゆっくり遠ざかって行くから」
このくだりに触発されて、盛田さんは自分の介護体験記に「ロング・グッドバイ」を使った。私もまた、「ディメンシア」に関する検索を重ね、専門的な説明に触れた。
たとえば、『マンガぼけ日和』に出てくる「中核症状」だが、これは脳の働きの低下によって起きる記憶障害や判断障害などを指すという。
小説を読み、検索を重ねるたびに、認知症は「敵」ではない――そんな意識に変わっていく。
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