『世界のふしぎな虫 おもしろい虫』(アリス館、2012年)=写真上1=は、著者が写真家の今森光彦さんだ。
出版社によれば、今井さんが写真のほかに文章を担当した。実物大の写真241点を、トンボ目・バッタ目・ナナフシ目など12目に分類して紹介している。図鑑としても貴重な1冊だという。
マレーシアやインドネシア、南米その他の国の、色や形、生態が不思議な虫や面白い虫を取り上げた。
前半では虫の「美術館」として70種の魅力を解説し、後半では虫の「宝箱」として実物大(一部縮小サイズ)の写真を掲載している。
今森さんは生まれて初めて、マレーシアで「擬態の名手たち」を見た。なかでも感動したのは、葉にそっくりのコノハムシだった。
翌年、またマレーシアへ行き、コノハムシとハナカマキリに出合う。するともう、止まらなくなった。
ということで、鮮やかな色合い、奇妙な形、予想外の行動をとる虫たちが次々に登場する。
そのなかで、表紙にも写っているジンメンカメムシに興味がわいた。夏井川渓谷にも、背中が人間の顔のような模様をしたカメムシ=写真上2=がいて、調べたことがあるからだ。そのときのブログ(2020年11月)を要約して再掲する。
――夏井川渓谷の隠居へ行くと、まずは雨戸を開ける。雨戸を戸袋にしまうころには、畳の上にカメムシがたくさん落ちている。
カメムシは雨戸の溝、座布団のすきま、衣紋掛けの服の内側、物置のゴザの内側と、至る所にもぐりこんで寒さをしのぐ。
ある日曜日、ガラス戸の柱に1匹、細長い人面を思わせるカメムシの仲間が止まっていた。この虫は逆さに止まっているときの方が、より人面に近い。
上(虫からいうと尾)が黒い頭部、その下に黒い目がある。さらにその下、灰色に囲まれた黒い鼻、大きな黒い口。見た目の頭部と目の間が白いほかは、ふちがほんのり赤い。だまし絵を見ているようだ。
なにかで似たお面を見たような……。モジリアニがアフリカの原始的な芸術に引かれていたことを思い出す。パプアニューギニアの「戦死者のお面」などは、形状も色彩もよく似ている。
オオホシカメムシ、らしい。漢字では「大星亀虫」。普通に頭を上にして止まっていても、このカメムシは大きな口を持った人面に見える。
上から見ても、下から見ても、と、こちらは勝手にあれこれ解釈するが、そんな解釈を可能にするような「外装」はどこから、なにによって生まれたのだろう。生きものの「外装」と、人間がつくるお面の「意匠」が似通っているのは偶然か――。
今森さんはインドネシアでジンメンカメムシと出合った。「集まっていたのは、トンジャンブブという赤い実のなる木で、逆さになって汁をすっている背中の模様が、人の顔に見えた」という。
人間の顔をまねた、というのはおこがましい。人間がまねた、とはもちろんいえない。とにかく引きつけられるデザインではある。
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