対岸・山崎(平)の丘の中腹に寺がある。梅福山専称寺で、山号に合わせて梅の木が植えられ、「梅の名所」として知られる。
「梅に鶯(うぐいす)」は花札の図柄だが、ウグイスが好んで梅の木でさえずるわけではない。春を待つ大昔の人々の願望=美意識が花札の図柄を生んだ。
とはいえ、こちら側、左岸の堤防で耳にするのは、やはり山崎に生息するウグイスのさえずりだ。
山崎側では震災前、県道甲塚古墳線を田んぼの中に付け替え、古い道路を河川敷にする大がかりな改修工事が行われた。
令和元年東日本台風のあとにも、河川敷の竹やヤナギが伐採され、土砂が撤去された。
それで、ウグイスが止まってさえずる「ソングポスト」がなくなった。さえずりが聞こえなかったり、聞こえても遠かったりするのはそのためだろう。
いわき駅周辺なら「お城山」がある。田畑を宅地にしたわが家のようなところでは、ウグイスはそうそうやって来ない。
近年はそれで、夏井川渓谷の隠居でウグイスの初音を聞くようになった。今年(2025年)は3月2日の朝、畑の隅に生ごみを埋めているときに、そばのやぶでさえずった。
「ホー、ホケキョ」の前置き「ホー」はまだない。「ホケキョ」も「ホケチョ」に近い。「ホケチョ」がやがて「ホケキョ」になり、頭に「ホー」がついて、「ホー、ホケキョ」が完成するのだろう。
といっても、「ホー、ホケキョ」は一般的な「聞きなし」で、ウグイスの個体すべてがそうさえずるわけではない。
渓谷のウグイスには「ホー、ホケベキョ」と、「ホケ」と「キョ」の間に「ベ」が入る個体がいる。
鳥の世界にも方言があることを、川村多実二『鳥の歌の科学』(中央公論社、1974年)で知った。
「ホケベキョ」は渓谷だけでなく、平地のわが家の近くでもたまに聞く。同一個体がいつもそうなのか、あるいはたまに鳴き方を変えるのか、それはわからない。
で、ウグイスのさえずりを「ホー、ホケキョ」と書き留めるのは月並みな表現にすぎない、いつかそんな認識を持つようになった。
平地のわが家の周辺は緑が少ない。隣接する東と南、計4軒の家は庭に木が植わってある。4軒まとめるとちょっとしたグリーンスポットになる。
ウグイスはもともと山野の鳥。このグリーンスポットは、大陸(山野)から離れた海上の孤島のようなものだ。そこへほかの島(大きな家の庭)を伝ってウグイスが漂着する――わが家の庭にウグイスが現れると、いつもそんなイメージがわく。
夏井川流域の梅前線は渓谷の江田に到達した。隠居はと見れば、梅はまだつぼみのままだ。根元にはオオイヌノフグリ=写真。こちらは例年、ウグイスの初音よりはだいぶ早く咲く。
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