2016年12月3日土曜日

松くい虫、再び

 1本の赤松の異変に気づいてから5年余りがたつ。夏井川渓谷の隠居の対岸、とんがり帽子のような岩盤の上に生えた赤松が少し“茶髪”になりかけたので、1年間、1~2カ月に1回くらいのペースでカメラを向けた。
 その写真が教える変化を2年前に書いた。――平成25(2013)年11月30日、緑色が勢いをなくして一部に黄色いメッシュが入っていた。同26年3月18日、黄緑色の葉はあるものの、大半が赤みを帯びる。5月4日、あらかた“茶髪”になった。6月8日、“茶髪”が濃くなる。7月22日、先端だけ赤いほかは灰色に。9月21日、そして11月16日、完全に枯れたらしく灰色一色になった。

 岩盤を囲むように赤松が三段になって生えているスポットだ。錦展望台の真向かいにあって、真っ先に観光客の目に入る。頂点の松が枯死したあとは、これといった異変は見られなかった。ところが、先日なにげなく目をやると、下段、中段の赤松の葉にほんの少し黄色いメッシュが入っていた=写真。とうとう。こちらも前記のような色の変化をして立ち枯れるものと思われる。

 黄色いメッシュが現れた時点で松はすでに瀕死の状態、というのが、渓谷の“定点観測”で得られた私見だ。葉が枯れれば赤い樹皮も時間をかけて黒ずみ、はがれ、白い“卒塔婆”と化して、やがて上部から折れて姿を消す。
 
 渓谷の森を巡りはじめた20年余前、松枯れがピークに達していた。直径1.5メートル以上の古木が次々に枯れた。いつころ松枯れが始まったかはわからない。いったん松枯れが収まったなと思ったのは、森巡りを始めてから5年ほどあとだ。
 
 師走に入ると、渓谷では大トリのカエデの紅葉も終わり、モミの暗い緑と赤松の明るい緑だけが目立つようになる。その明るい緑が十数年ぶりに枯れだした。岩盤の露出したスポットだけでなく、あちこちで枯死が目立つ。
 
 樹木医に松枯れの原因を聞いた。若くて元気のいいのは松くい虫の被害に遭わない。十数年前に松枯れ被害を免れた木が年輪を重ねてやられたのだろう、という。

 そこだけ写真で切り取れば天然の盆栽のような美景だが、1年後には見る影もなくなっているのか。にしても、まだ若い松だ。若い松もやられるようになったのではないか。

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