日本の地図は、今は北が上だが、左が北になっている。つまり、現代の感覚からいうと、90度左に転回したかたちで文字が書き込まれている(「神楽山」だけは今回、私が書き加えた)。
山名や地名は黒字、鳥・獣・虫・魚は赤字。たとえば、左=北の戸渡には、山鳥・カジカ・カナ蛇・イワナ・カジカ蛙のほか、木鼠(きねずみ=ヤマネ)・蛍・晩鳥(ばんどり)が生息する。馬もいる。右岸域・赤井村と境をなす夏井川には、下流・下小川から上流・高崎にかけて鯰(なまず)・鮭・鮎・ウグヒ(イ)・鱒(ます)がいた。
晩鳥は、小学生のころ、大人がよく口にしていたのを覚えている。ムササビのようで、しかしそれよりは小さい。モモンガのことらしいが、昔は両者をどのくらい区別していたか。モモンガもムササビも一緒くたにしていたのではなかったか(むろん、これは大人になってあれこれ考えるようになってからのギモンだが)。
地図の上部=東には隣接自治体の木戸(村)・大久村・広野村・大野村・平窪村が書き込まれている。大久と広野は位置が逆だろう。
木戸村は昭和31(1956)年、竜田村と合併して楢葉町になる。広野村は同15(1940)年、広野町に。大久村は同41(1966)年、大同合併していわき市の一部に。平窪村は同12(1937)年、平町と合併して平市の一部になる。つまり、昭和12年以前の地図ということだから、同7年までに調査し、作製された『郷土誌』(だとして)所収の地図と重なる。
夏井川に絞っていうと、サケ・マスが遡上してきた。それを住民が捕らないはずはない。地図に記されたいきものは、ホタルやカジカガエルを除いて“漁猟対象種”だったか。
前にも触れたが、夏井川渓谷の左岸域、神楽山系に風力発電用の風車が立ち並ぶ計画がある。それが地元の人間の暮らしに、自然の営みにどう影響するのか――そんな思いから始まって、手持ちの資料をあれこれ見ていたら、ざっと90年前のものと思われる“生物分布図”が出てきたのだった。
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