2018年3月21日水曜日

「そよ、そよそよとないている」

 夏井川渓谷の隠居に、メモ用に使っている紙挟み(クリップボード)がある。B4判と、普通のA4判よりは大きい。何年も前から、福島県の地図や渓谷の観光チラシなどをはさんだままだ。20年前に家庭菜園を始めたときの野菜栽培図や、行政が委託した業者による庭の放射線量測定記録がある。
“孫”の落書きもはさまっていた=写真上。紙いっぱいにキノコとネコ、女の子が描かれている。右上には「そよ風や、そよ、そよそよとないている」の“俳句”、右下には「2009年10月11日(日)」の日付が書き込まれている

“孫”はこの4月、東京で大学生になる。9年前は小学4年生だった。若い仲間の娘だが、生まれたときから知っている。私のことを「たかジイ」と呼ぶ。拙ブログを参考にして、“孫”たちの成長過程を見てみる。もう1人の“孫”は2歳下。4月には高2になる。

【2008年3月】“孫”は小3と小1。わが家へやって来て、ネコどもを抱いて「いじくりこんにゃく」にする。長女は作詞をする。それに母親が曲をつけた。最初は照れていたが、「タカじい」のために歌ってくれた。次女は絵をかくのが好き。「タカじいの顔をかいてよ」と催促すると、「かけない。だって、おでこツルツルだもの」

【2008年9月】夏井川渓谷の隠居で晩酌を始めると、電話が鳴った。「たかジイ、だれだか分かる?」。上の“孫”だった。あとで下の“孫”が出る。「もう酒を飲み過ぎてんでしょ。飲み過ぎると頭がばかになるよ。戸を開けていると蚊が入って来るよ」。

【2010年7月】若い仲間一家4人、長男一家4人がやって来た。夫婦2人だけの夕餉が、その晩は一挙に10人になった。小5、小3の“孫”が、3歳、1歳の孫の面倒をみる。

【2012年6月】中1と小5の“孫”が「父(ジジ)の日」イラスト応援メッセージを持って来る。「いっしょにハゲ毛(もう)!」は妹、「いっしょにはげもう」は姉。(妹はハゲにこだわっている)

【2014年8月】中3の“孫”が家に来るなり、「いわき生徒会長サミット」の一員として訪れた広島・長崎でのことを話し始める。止まらない。マシンガントークだ。それだけ深く心にしみる体験だったのだろう。中1の“孫”は読書感想文に行き詰まっていた。いろいろ話したら、即興で4コマ漫画をかいてくれた=写真下。
【2016年6月】5月の終わりに高2の“孫”が「クラブソニックいわき」でギターの弾き語りをする。初ステージだというので、夫婦で出かける。

【2016年11月】上の“孫”が授業で福島大生の「いるだけ支援」を知り、「大学生になって、もし機会があればやってみたい」とフェイスブックでコメントしていた。「『来るだけ支援』もあるぞ」と書いたら、「なんだって!? 私がいつも吉田家に長年にわたり実施してきた支援(?)のことかしら……?」。そうだ。

 18歳、巣立ちのとき――。去年の暮れにカレーライスを食べに来た。高校卒業式の日には、はかま姿で現れた。母親は巣立ちを喜びながらも、「もう戻って来ないかもしれないね」とつぶやいた。一時帰省はともかく、大学を卒業していわき以外で仕事に就けば、そうなる。

 戻ってよし、戻らなくてもよし。そよ風が鳥のようにそよそよと鳴いている日ばかりとは限らない。あらしのときもある。それでも、そよ風の精神で大学生活を楽しめばいい――9年前の落書きを手に、そんなことを思った。

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