一般財団法人日本きのこセンターが発行している月刊誌に「菌蕈(きんじん)」がある。キノコの総合誌だという。同センター菌蕈研究所特別研究員・長澤栄史さんが「表紙のきのこに寄せて」と題して連載している。2年前の平成28(2016年)7月号では「ツチグリ(土栗)、ツチガキ(土柿)」を紹介した。
そのなかにこんなくだりがある。「夕刊いわき民報(2013.6.3)に掲載された吉田隆治氏の記事―『あぶくま、星の降る庭』4.マメダンゴ―によると、『梅雨期が旬、阿武隈高地では味噌汁が定番、焚き込みご飯も良い。内部が“白あん”が良く、“黒あん、白黒あん”は駄目』とある。白あん、黒あんとはうまい表現である」
名字に記憶があった。私も使っている『きのこ図鑑』の共著者に名を連ねている、キノコ研究のプロ中のプロではないか。同い年だ。専門家から見ても、阿武隈高地の住民のツチグリ幼菌(マメダンゴ)好きは珍しいものだったらしい。でも、「あぶくま――」はネットでは読めない。どうしていわきの紙媒体にまで目が届いたのか。
「あぶくま――」は2013年3月、月1回のペースでスタートした。虫をテーマに連載中の知人が急に入院した。古巣の後輩から泣きつかれた。原発震災でわが「原郷」の阿武隈の山と里が汚された。ものいえぬ阿武隈の動植物に代わって怒りをぶつけてやらねば――そんな気持ちで「穴埋め」を引き受けた。知人は無事退院して、別の欄で連載を再開している。
「あぶくま――」の隣に、画家冨田武子さんの「いのちを描く――ボタニカルアートの世界」が載る。紙面では伏せているが、いわきキノコ同好会では冨田さんが会長、私が副会長だ。緊急の穴埋めでそうなってしまった。
同じ阿武隈のキノコを取り上げる可能性がある。で、キノコの場合は、学術的な説明や形・色彩は冨田さんにまかせて、キノコと阿武隈の人間の関係、つまり食文化に重点をおいて書くようにしている。それが、連載を始めて4回目、最初に取り上げたキノコの「マメダンゴ」だった。
冨田さんは全国のキノコ研究家とつながっている。その線から長澤さんのもとに新聞コピーが届いたのだろうか。プロの深い「知層」にいわきの地名と阿武隈のマメダンゴの食文化が加わった。それだけではない。「白あん、黒あんとはうまい表現である」とほめてくれた。光栄なことだ。
きのう(6日)、近畿、東海、関東甲信地方の梅雨入りが発表された。東北南部も今朝は梅雨入りを予感させるような曇天だ(と思ったら、青空が広がってきた)。梅雨入り後の6月下旬になると、マメダンゴ採りが始まる。夏井川渓谷の隠居の庭の場合は、警察の鑑識よろしくひざまずき、地面に手のひらを当てて地中の感触を探る、地面を凝視する――そんな感じで。
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