理由は簡単だ。シャンプーで頭を洗うとすぐかゆくなる。フケがこぼれる。アレッポの石けんに切り替えたら、フケもかゆみも止まった。それだけではない。2年前からは足の裏も洗うようにしている。その効果が出て、水虫による症状が消えつつある。
オリーブオイルとローレル(月桂樹)オイルのほかは、水と苛性ソーダを加えただけで3昼夜釜たきし、1年以上かけて熟成させた石けんだ。添加剤や合成香料は一切入っていない。これが肌に合った。汚れを落としながら脂肪酸を補うので、皮膚に潤いが残る。
この石けんの使用歴はもう二十数年になるだろうか。顔も体も洗いながら、足の裏だけはほったらかしにしておいた。ところが、足の裏も洗うときれいになることを、NHKの「あさイチ」で知った。
左の足裏は問題ないが、右の足裏はどういうわけか、若いころからかかとが角質化してひび割れができたり、皮膚がボロボロはがれたりしていた。小指と薬指の間がジュクジュクして裂け、痛がゆかった。
足の裏とふち、指の間を石けんで洗い続けること2年、じんわりと殺菌・潤い効果が出てきた。足を洗うのが楽しくなった。指の間のジュクジュクもほぼ消えつつある。ツルツルになった、といえるまでもうちょっとだ。
シリアでは内戦、日本では東日本大震災がほぼ同時に起きた。酒井啓子著『移ろう中東、変わる日本 2012-2015』(みすず書房)によると、シリアから「国外に逃れられた人々はまだいい方で、国内で居場所を奪われた国内難民は、760万人にも上る。国外、国内を合わせると、シリアで難民化している人たちは、人口の半数を超える」
シリアの人口は2200万人。その半分が難民化した。「第二次世界大戦以来の危機的状況」と言われるゆえんだ。
日本の輸入会社が取引している製造業者は内戦下のアレッポを脱出して、ラタキアというところへ移った。アレッポの南西に位置する港町だ。そこで石けん製造を再開した。1000年の歴史を誇る石けんはかろうじて命脈を保った。とはいえ、ほかの製造業者は廃業や、トルコなどへの移転を余儀なくされた。
カミサンが、店でこのせっけんを扱っている。一時販売を中断していたが、震災後、輸入会社から連絡が入り、再開した。おかげで心配なくアレッポの石けんを使い、その薬効を実感することができる。この一点だけで、ニュースに触れるたびにチラリと思う。戦争は、人命・財産だけでなく、文化を、歴史を、生業を、生活を破壊する。平和あってこその石けんだ――と。
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