2019年10月16日水曜日

台風19号④渓谷への道

 今思うといささか無謀だったかな、と反省している。夏井川渓谷の隠居へ近づくごとに不安が募る。道路が土石で覆われている。山からしみ出した水が路面を洗っている。何カ所か、片側しか通れない。このまま行って、進むも退くもならなくなったらどうしよう――。
 台風19号が東海上へ去って一日たったおととい(10月14日)早朝、渓谷の隠居の様子が気になって出かけた。浸水被害に遭った平窪地区を避け、反時計回りに北神谷(平)から柳生街道(県道小野四倉線)へ抜けて、下小川(小川)でいつも利用する国道399号(県道と重複)に出た。台風襲来前と変わらない――と思ったのは、そのとき、そこだけ、だった。
 国道と並行する夏井川のハクチョウ飛来地を過ぎると、両側の田んぼに車が突っ込んでいる=写真・上1(帰路に撮影)。渓谷と平地の境、高崎(小川)では、眼下に広がる川岸の水田が土砂で埋まっていた=写真・上2。

渓谷ではところどころ、山から土砂が流れ出して路面が茶色くなっている。ロックシェッドから500メートルほど行ったところで、最初の関門が待っていた。山側の沢で土砂崩れ、いや小規模な土石流が発生したのではないか。

隠居のある牛小川の手前、椚平の山中に居を構える友人が、前日13日、街の旧宅から帰るのにUターンして国道399号~母成(ぼなり)林道を経由せざるを得なかったのは、ここだろう。一日たって車1台がやっと通れるようになったのは、そばにあったバックホーのおかげにちがいない。

江田の集落に入ると、路面が細かい土石で覆われていた。山側に人の行き来できる四角いトンネルがある。そこから土石が流れ出してきた。一帯が小石まじりの砂利道と化した。(トンネルの上には、近くの江田駅からスイッチバックで渓谷を駆け上がるための折り返し線があった?)

椚平から隠居のある牛小川へ――。籠場の滝までおよそ500メートルというところで肝を冷やす。磐越東線直下のS字カーブで土砂崩れが起き、木々がなぎ倒され、土石が山となっていた。通れるのか? 応急的に車1台がやっと通れるように倒木が切られていた。フィットで土砂の山を乗り越えるのに難儀する。

籠場の滝のわきを進むとすぐ、岸辺に駐車場が見える。ここがえぐられてなくなっていた。2007年秋、完成直後に襲来した台風による大雨で一度えぐられている。翌年夏には、籠マットが何段にも組まれて復旧した。それが10年余りたった今年(2019年)、また損壊した。

ふだんから落石が絶えないV字谷だ。標高が高くなるにつれて路面状況が悪くなる。オフロードに近づいていく。
隠居の手前に錦展望台がある。その山側、道路をくぐって夏井川に排水する集落の水路が倒木と土石で埋まり、行き場を失った水が道路にあふれていた。子どもの頭大から大人のこぶし大までの石が路面を覆っていた=写真・上3。「牛小川は“石小川”」。少し前に亡くなった元区長さんの言葉がよみがえる。

隠居は無事だった。風による倒木もなかった。水は井戸水だから、今度の断水とは無関係だ。持ってきたビンややかんなどに水を汲み、温水をためて朝風呂に入った。実は水くみと入浴も隠居行の目的だった。

帰りは集落のKさんと偶然、一緒になった。隠居から車を出すとすぐ後ろから軽トラが来て、クラクションを鳴らし続ける。車を止めると、Kさんだった。お姉さんが中平窪に住んでいて、浸水被害に遭った。キノコと栗のおこわをつくって持って行くところだという。ワンパックをお福分けにあずかる。

S字カーブの倒木は、実はKさんが牛小川の区長さんと一緒に切ったのだという。それで通れるようになった。週末だけの半住民だが、牛小川の隣組にも入っている。顔見知りを超えた関係ができて、地元の事情がよくわかるようになった。山里で暮らす人々の自助と互助の精神、ワザにはいつも感心させられる。
まずはKさんに道を譲り、あとからついて行く=写真・上4。渓谷から平地の小川へ下り、Kさんにならってまっすぐ平窪を通りぬけた。道端には浸水跡がはっきり残っている。同地内の国道399号は、前日夕方には通行止めが解除になっていた。

県道は高崎から渓谷側が通行止めになっている。が、半住民としては「オウンリスク(自己責任)」で通るしかない。3・11のときもそうだった。

山間部は至るところで道路が寸断されている。いわきから阿武隈の山を越えて中通りへ抜ける基幹道路は、国道289号、県道いわき石川線、国道49号と県道小野四倉線だが、すべてが通行止めになっている(14日午後1時現在)。

夏井川渓谷も牛小川から先はオウンリスクでも行けない。おとといの朝から48時間がたつ。状況は、少しはよくなっただろうか。

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