2019年10月25日金曜日

台風19号⑬いきものたちの避難所

 いわき市平赤井で床上浸水被害に遭った若い友人一家が、おととい(10月23日)、風呂を借りに来た。
ボイラーが水没・故障し、断水が解消されても風呂に入れない。あちこち入浴サービスのあるところを巡ったが、人が多くて入るまでに時間がかかる。わが家でも水が復活したことから、電話がかかってきた。「風呂、いいですか」。いいも悪いもない。どうぞ、どうぞ、だ。

 浸水の状況は電話で聞いていた。しかし、会って話すとまた違った感慨がわく。高3の“孫”は美大への入学が内定した。その報告も兼ねていた。大学ではイラストレーションを学ぶようだ。

小さいときから絵を描くのが好きだった。右に掲げたのは5年前(2014年)の8月、中1で読書感想文に悩んでいたときの作品。課題の本は『星空ロック』といって、少年が旅をする話だ。「空間的な旅のほかに時間的な旅がある、人生は旅なんだよ、人間は死ぬまで旅をしてるんだよ」。ほろ酔い気分で“孫”にそんな話をしたら、たちまち4コマ漫画に仕上げた。ちゃんと起承転結を踏まえている。内心、舌を巻いた。

 赤井では、たまたま工事で家の周りに単管パイプの足場が組まれていた。父親が台風一過の朝、リビングのある2階から外階段に出ると、衝撃的な光景が広がっていた。それだけではない。足場や階段にいろんないきものが避難していた。ヘビ、カエル、イナゴ、その他もろもろ。イナゴはヘビの背中に乗っていた。

 カエルの天敵はヘビだが、カエルを狙うどころではない。カエルもイナゴをパクッとやるどころではない。それぞれが大水から逃れて生き延びるのに必死だ。

彼らの本質は生きて次に命をつなぐこと――そのための食物連鎖だが、大水は一発でそれさえ断ち切る。生への危機感、一念がおのずと同じ場所へ向かわせた。そうして足場や外階段はいきものたちの「ノアの箱舟」、いや「ノアの筏(いかだ)」になった。

父親はこの光景を写真に撮った。あとで見せてくれるという。“孫”には、文章と組み合わせて絵物語を展開する“イラストライター”の道を歩んでほしいと思っている。浸水を奇貨として、この「命の物語」を描くことを勧めた。

 実は、わが家では逆のことが起きていた。朝晩、カミサンにえさをもらいに来る野良猫の「ゴン」=写真上=が、台風が去るのと同時に姿を消した。この1年、老化が進んだものの、大雨から逃れるくらいの力は残っていたはずだ。家の周りでは歩道が冠水しただけ、どこでどう台風をやり過ごしたのか。相性が悪い猫だったが、姿が見えないとやはり心配になる。

 8年半前の原発震災のときには奇跡が起きた。猫が3匹いた。1匹は老衰で後ろ足を引きずっていた。排便もちゃんとできなくなっていた。えさも、水も用意して人間は避難した。ところが、9日後に帰宅すると、老い猫は死んでミイラになっているどころか、4本の足でちゃんと歩けるようになっていた。

63年前、ふるさとの田村郡常葉町(現田村市常葉町)が大火事になったときにも、やはり奇跡が起きた。わが家の飼い猫の「ミケ」と離ればなれになった。ほかのペット同様、焼け死んだのだろう――そう思っていたら、1週間後、私たちが身を寄せていた親類の家(石屋)の作業場に姿を現した。

今度もまた奇跡が起こるのかどうか。小さないきものたちの本能に感動した人間としては、ゴンにもそれを期待したいのだが……。

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