2023年11月15日水曜日

少女小説

                               
 11月8日付の東京新聞「本音のコラム」に、文芸評論家の斎藤美奈子さんが「いわきの文学賞」と題して書いている。

 今年(2023年)の吉野せい賞表彰式が11月4日、いわき市立草野心平記念文学館で開かれた。

式後、斎藤さんが「近代文学に見る出世と恋愛」と題して記念講演をした。

斎藤さんは冒頭、「ちょっと早く着いたから」と、会場の片隅で表彰式を見学したことを明かした。

これを踏まえて、11字×51行、ざっと560字のなかで、吉野せいの略歴と吉野せい賞を紹介している。

同賞は「今年でじつに46回目。地方都市には珍しい公募の新人文学賞が途切れることなく続いているのも奇跡といえば奇跡である」。

そして、表彰式の内容に触れる。「正賞は該当作なしだったが、準賞と奨励賞の受賞者4人中3人までが60代。まさに吉野せいの精神。文学は何歳からでも始められるのだ」

で、斎藤さんらしいオチに、「そこを突いてきたか」と、しばらく口が開(あ)きっぱなしになった。

「地方文化の健在ぶりを知るのは嬉(うれ)しい。スパリゾートハワイアンズ、アクアマリンふくしまだけがいわきじゃないよという話」

知り合いのルートで新聞コピーのファクスが届くと、カミサンが「こんなのがあるよ」と、斎藤さんの本を手渡した。河出新書の『挑発する少女小説』(2021年)だった=写真。

日本でも大ヒットした『小公女』『若草物語』『ハイジ』『赤毛のアン』など9作品を「少女小説」の観点から論じている。

『赤毛のアン』の翻訳者である村岡花子をモデルに、NHKが朝ドラ「花子とアン」を放送したことがある。

それをきっかけに、『赤毛のアン』のテレビドラマを見たり、小説の舞台になったカナダのプリンス・エドワード島に関する本を読んだりした記憶はあるのだが……。ほかの作品も含めて、小説そのものは読んだことがなかった。

斎藤さんによると、少女小説とは①現実に即したリアリズム文学②良妻賢母教育のツール③読者が選んだロングセラー④人気があるのは翻訳物――。

ほかに、⑤少女小説を特徴づける四つのお約束ごと、がある。すなわち、主人公はみな「おてんば」・主人公の多くは「みなしご」・友情(同性愛)が恋愛(異性愛)を凌駕(りょうが)する世界・少女期からの「卒業」が仕込まれている。

現代のフェミニズムの観点から見て、少女小説が「保守的」なのは当たり前だという。

しかし、そこで終わらないのが斎藤流だ。読者には「誤読する権利」があるから、作者の意図と関係なく、自分に都合よく物語を読みかえることができる。

「大人になって読む少女小説は、子どもの頃には気づかなかった発見に満ちています」。というわけで、『挑発する少女小説』を読み始める。

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