2023年11月9日木曜日

命日の表彰式

                      
 第46回吉野せい賞表彰式が土曜日(11月4日)、いわき市立草野心平記念文学館で開かれた。第47回同賞ポスター表彰式も同時に行われた。

 同賞運営委員会の委員長があいさつの冒頭、11月4日が吉野せいの命日であることに触れた。そうだった。46年前のこの日、吉野せいが亡くなったのだった。

 今年(2023年)はたまたま表彰式と命日が重なった。以前は命日に近い日曜日に行われていたが、最近は土曜日開催が続いている。

残念ながら去年に続いて今年も正賞該当作品はなかった。

準賞、奨励賞(3編)、中学生以下の青少年特別賞(2編)、合わせて6編が入賞し、準賞を除く5人が出席した=写真。5人の選考委員を代表して選評と総評を述べた。

表彰式のあとは恒例の記念講演会で、今年は文芸評論家の斎藤美奈子さんが「近代文学に見る出世と恋愛」と題して話した。

日本の「青春小説」のパターンとして、①主人公は地方から上京してきた青年②彼は都会的な女性に魅了される③しかし彼は何もできずに、結局ふられる――がある。斎藤さんによると、夏目漱石の「三四郎」がこのパターンをつくった。

そして、もう一つ。①主人公には相思相愛の人がいる②二人の仲は何らかの理由でこじれる③そして彼女は若くして死ぬ――。伊藤左千夫の「野菊の墓」は、この恋愛小説の金字塔だそうだ。

愛した女性が死ぬことで恋愛が美しい思い出のまま保存される。この「死ぬ物語」は15年周期でベストセラーになる、ともいう。理由は、読者が入れ替わるからだとか。

「世界の中心で、愛をさけぶ」「君の膵臓をたべたい」などとともに、斎藤さんが例示したなかにノンフィクションの「愛と死をみつめて」があった。10代半ばで夢中になって読んだことを思い出す。

それもあって、一般論としていうのだが、文学に目覚めた少年少女が小説を書くと、まず恋愛小説になり、男か女かはともかく、どちらかが死んでしまう。

ところが今年、青少年特別賞部門に応募した作品は、こうしたパターンを乗り越えたものが多かった。

総評の中で私は「青少年特別賞関係では今回特に、性や性教育、ジェンダー、ヤングケアラーといった、時代と社会が直面している課題や問題を等身大で描いた作品に、これまでと違った手ごたえを感じた」と述べた。

「これまでと違った手ごたえ」には、「登場人物を簡単に死なせない」工夫のことも含まれている、といってもよい。

ついでながら、斎藤さんの「金色夜叉」論にはうなった。作品の舞台になった熱海には、「お宮」を足蹴りにする「貫一」の銅像が立つ。ドメスチックバイオレンスが観光名所になっている――。

そうだ、男の視点で文学を見過ぎてはいけないのだ。ふだんアッシー君をしている人間としては、そんな感慨を抱いた。

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