2024年6月12日水曜日

愛された駅舎

                     
 田村郡小野町の東方文化堂・渡辺伸二さんから、JR磐越東線小川郷駅舎の特別展図録をちょうだいした=写真。

 日曜日(6月9日)、夏井川渓谷の隠居へ行った帰りに図録を思い出し、寄り道をして新しい駅舎をのぞいた。

 古い木造駅舎はそれなりにモダンな趣があったが、新しい駅舎は箱型で中にベンチがあるだけ。無人化駅だから、それもしかたないか――。

磐東線沿いを行き来しながらも、列車を利用しなくなった人間は勝手にそんな思いを抱いた。

それはともかく、図録には目を見張った。よくぞ、ここまで。さすがは磐東線研究者だ。

渡辺さんはいわき市にある平工業高校へ列車で通学した。鉄道オタクでもある。平成19(2007)年には『磐越東線ものがたり 全通90年史』を出版した。

磐東線に関してわからないことがあると、総合図書館からこの本を借りて来る。草野心平の詩「故郷の入口」に出てくる「ガソリンカー」も、これで詳細を知った。

6年前にUターンし、自宅兼店舗に磐越東線ギャラリーを開設した。新聞で知り、マイクロツーリズム(山里巡り)の途中に立ち寄った。

ギャラリーの奥、かつては居間だったスペースは「ミニ企画室」、さらにその奥は「ミニ図書室」になっていた。

名刺を交換して以来、メールがくるようになった。現在、月刊タウン誌「街の灯(ひ)こおりやま」に「磐越東線 各駅停車散歩」を連載している。それも毎回届く。

小川郷駅舎の解体・新築に伴う特別展は、令和5(2023)年7月31日から12月30日まで開かれた。

図録は横A4サイズで本文50ページ余。小川郷駅の歴史、写真による今昔、駅舎の待合室や改札口、ホームの上屋や待合室などのほか、小川郷(さと)の会の活動も写真を多用して紹介している。

「マスコミ報道」は県紙のほかに、地元・いわき民報の記事ももれなく掲載した。ついでながら、月曜日(6月10日)の同紙は、1面トップで特別展図録の刊行を記事にしている。

駅舎は心平の詩の検証には欠かせない。が、同時にSL時代の駅構内の写真には学生時代の記憶がよみがえった。

駅に隣接して「粘土積込場」が建設された。昭和39(1964)年に平高専(現福島高専)に入学し、夏休みなどの長期休暇に中通り出身の級友たちとSLで帰省した。その途中、小川郷駅ではこの巨大な建物に圧倒された。

渓谷の隠居へ通い始めたころ、平の上平窪から小川の下小川に入ると、頭上を運搬ケーブルが横断していた。

磐城セメントが平窪~下小川の地下に眠っている頁岩(けつがん=セメントの原料)を掘り出して小川郷駅へ運び、貨車で田村工場と四倉工場へ輸送していたという。

小川町の故国府田英二さんからちょうだいした冊子『昔のおがわ 今のおがわ』(2016年)で知った。

その冊子と連結する図録でもある。開業以来108年、「愛された駅舎」だった。つくづくそう思う。

0 件のコメント: