移動図書館から借りた本の中に、『名画のなかの美しいカラス』があった=写真。著者はアンガス・ハイランドとキャロライン・ロバーツという人で、今年(2024年)4月、エクスナレッジというところから喜多直子訳で出版された。
アンガスは英国のグラフィックデザイナー、キャロラインは同国のグラフィック専門ジャーナリストだという。同じコンビと訳者で『名画のなかの猫』も出ている。
カラスが主題であるからには、読まないわけにはいかない。理由は、カラスが「好き」というよりは「賢すぎる隣人」だからだ。
家の前にごみ集積所がある。家庭から出されるごみには人間の意識が反映される。少しでもマナー違反があると、カラスは目ざとくそこを突く。
コミュニティ=ゴミュニティには、ごみと人間のほかにカラスが加わる。カラスとの知恵比べに負けるわけにはいかない。
翼を持ったこの隣人にスキを見せないようにするには、まずは相手を知ることだ。そう考えて、図書館の新着図書コーナーにカラスの本が並ぶとすぐ借りて読む。『名画のなかの美しいカラス』もそうして読んだ。
巻頭の文章から違和感というか、とまどいを感じた。カラス讃歌である。寄稿したのはクリス・スカイフという「ロンドン塔のレイヴンマスター」だ。
日本では、カラスといえば「クロウ」のハシボソかハシブトだが、イギリスでは「レイヴン」のワタリガラスだという。レイヴンマスターとは、つまりワタリガラスの飼育係ということになる。
17世紀のロンドン大火のあと、勅令によって、ロンドン塔で最低6羽のワタリガラスを飼育することになった。
「ロンドン塔からワタリガラスがいなくなるとイギリスは滅びる」。当初、駆除を考えていたチャールズ二世が占い師の言葉に従ったのだという。
塔には衛兵がいる。そのなかにワタリガラスを世話するレイヴンマスターの役職が設けられた。巻頭の文章はそのマスターの推薦文のようなものである。
「カラスは気高く、聡明で、周囲をよく観察し、あらゆることを把握している。カラスにまつわる寓話や伝説は、とても美しく、あまた存在し、そしてずいぶんと風変わりだ。この本には、そんなカラスたちの珠玉の物語が集められている」
ウィル・バーネット、デヴィッド・インショー、ポール・ブリーデン……。ゴッホやゴーギャン、河鍋暁斎や酒井抱一などはともかく、知らない画家の作品が大半なので、新鮮といえば新鮮だった。
イギリスにも、腐肉や生ごみをあさるカラスがいる。それがクロウで、日本でいえばハシブトガラスやハシボソガラスと同類だ。
東日本大震災の前、同級生と北欧を旅行したことがある。現地へ足を踏み入れて初めて出合った生き物はカラスだった。
日本のカラスと違って真っ黒ではない。首の周りや胸が灰色っぽい。極東のコクマルガラスと近縁種のニシコクマルガラスだった。ワタリガラスには気づかなかった。
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