2024年9月18日水曜日

『名画のなかの美しいカラス』

                           
   移動図書館から借りた本の中に、『名画のなかの美しいカラス』があった=写真。著者はアンガス・ハイランドとキャロライン・ロバーツという人で、今年(2024年)4月、エクスナレッジというところから喜多直子訳で出版された。

 アンガスは英国のグラフィックデザイナー、キャロラインは同国のグラフィック専門ジャーナリストだという。同じコンビと訳者で『名画のなかの猫』も出ている。

 カラスが主題であるからには、読まないわけにはいかない。理由は、カラスが「好き」というよりは「賢すぎる隣人」だからだ。

家の前にごみ集積所がある。家庭から出されるごみには人間の意識が反映される。少しでもマナー違反があると、カラスは目ざとくそこを突く。

コミュニティ=ゴミュニティには、ごみと人間のほかにカラスが加わる。カラスとの知恵比べに負けるわけにはいかない。

翼を持ったこの隣人にスキを見せないようにするには、まずは相手を知ることだ。そう考えて、図書館の新着図書コーナーにカラスの本が並ぶとすぐ借りて読む。『名画のなかの美しいカラス』もそうして読んだ。

巻頭の文章から違和感というか、とまどいを感じた。カラス讃歌である。寄稿したのはクリス・スカイフという「ロンドン塔のレイヴンマスター」だ。

日本では、カラスといえば「クロウ」のハシボソかハシブトだが、イギリスでは「レイヴン」のワタリガラスだという。レイヴンマスターとは、つまりワタリガラスの飼育係ということになる。

17世紀のロンドン大火のあと、勅令によって、ロンドン塔で最低6羽のワタリガラスを飼育することになった。

「ロンドン塔からワタリガラスがいなくなるとイギリスは滅びる」。当初、駆除を考えていたチャールズ二世が占い師の言葉に従ったのだという。

塔には衛兵がいる。そのなかにワタリガラスを世話するレイヴンマスターの役職が設けられた。巻頭の文章はそのマスターの推薦文のようなものである。

「カラスは気高く、聡明で、周囲をよく観察し、あらゆることを把握している。カラスにまつわる寓話や伝説は、とても美しく、あまた存在し、そしてずいぶんと風変わりだ。この本には、そんなカラスたちの珠玉の物語が集められている」

ウィル・バーネット、デヴィッド・インショー、ポール・ブリーデン……。ゴッホやゴーギャン、河鍋暁斎や酒井抱一などはともかく、知らない画家の作品が大半なので、新鮮といえば新鮮だった。

イギリスにも、腐肉や生ごみをあさるカラスがいる。それがクロウで、日本でいえばハシブトガラスやハシボソガラスと同類だ。

東日本大震災の前、同級生と北欧を旅行したことがある。現地へ足を踏み入れて初めて出合った生き物はカラスだった。

日本のカラスと違って真っ黒ではない。首の周りや胸が灰色っぽい。極東のコクマルガラスと近縁種のニシコクマルガラスだった。ワタリガラスには気づかなかった。

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