2024年12月18日水曜日

「暴力」を書き留める

                             
 先日、全国紙の別刷りに「『暴力』に抗う文学」の記事が載った。今年(2024年)のノーベル文学賞受賞者は韓国の作家ハン・ガン(1970年~)。彼女の作品などを翻訳した斎藤真理子さんに、「いま読むべき本」について記者が聞いた。

 ハン・ガンの「別れを告げない」「少年が来る」をまず取り上げる。ほかに、ウクライナの作家アンドレイ・クルコフ(1961年~)の「灰色のミツバチ」と「侵略日記」、台湾の作家呉明益(1971年~)の「自転車泥棒」なども紹介した。

 クルコフなら前に図書館から借りて読んだことがある。「ウクライナ日記――国民的作家が綴った祖国激動の155日」(吉岡ゆき訳、集英社)。

 ロシアのウクライナ侵略の淵源ともいわれる、2013年のマイダン革命からロシアのクリミア半島編入、それに続く内乱を書き留めた記録と考察の書だ。

同じころ、呉明益の小説『複眼人』(小栗山智訳、KADOKAWA)も図書館から借りて読んだ。

 「2006年ごろ、太平洋にゆっくりと漂流する巨大なゴミの渦が現れ、科学者にも解決の手立てがないという英文記事をネットで目にした」。日本語版の序文に小説を構想するに至ったきっかけが書かれている。

 まずはこの2人から。記事で紹介されている本が図書館にあるかどうかをチェックする。

クルコフの2冊と呉明益の1冊があったので、「侵略日記」(福間恵訳、集英社)=写真=を借りて読んだ。

新型コロナウイルスによるパンデミックがウクライナにも及んでいた。いわば「内憂」にロシア侵攻という「外患」が加わる。

「2022年2月24日、ロシアの最初のミサイルがキーウに着弾した。午前5時、妻と私は爆発音で目が覚めた」

翌日にはキーウから西へと避難を始める。車の流れは止まり、高速道路を軍用車両が行き交っていた。

「この戦争は既に『世界戦争』である」。それから1カ月後、「2日前私は、戦争が始まって以来初めてまともな夕食を作った」。

あのときと同じだ――。巨大地震に見舞われ、大津波が押し寄せ、原発が事故を起こした、あのとき。

とにかく西へ。幼い孫たちとともに、車2台でいわきを離れた。国道49号から同4号へ、車列は時間がたつごとに増え、大渋滞が起きた。4号に沿う高速道路(東北道)をポンプ車が何台も北上していった。

 戦争も、原発事故も市民のいのちを危険にさらすという点では同じだ。「侵略日記」を読みながら、何度もあのときのことを思い出していた。

「別れを告げない」「灰色のミツバチ」などは、12月17日現在、貸出中か予約中だ。「少年が来る」は蔵書にない。となると、次に借りるのは「自転車泥棒」あたりか。

0 件のコメント: