「互恵」と「生物界」からすぐ、「菌根共生」や「相利共生」といった言葉が思い浮かんだ。
クリスティン・オールソン/西田美緒子訳『互恵で栄える生物界――利己主義と競争の進化論を超えて』(築地書館、2024年)=写真。図書館の新着図書コーナーにあった。
「互恵」に「生物界」とくれば、何をテーマにした本かはだいたい見当がつく。さっそく借りて読んだ。
のっけから植物と土壌微生物の「もちつもたれつの関係」、つまり菌根ネットワークの話が出てくる。思った通りだ。
私たちはダーウィンの洞察を誤ったやり方で世界に当てはめ、自然界に存在している寛容さと協力関係を見落としているとしたらどうだろう、と著者は問いかける。それが、この本のサブタイトルに表れている。
オールソンはアメリカのオレゴン州に住むライター兼作家だ。彼女はまず、菌根ネットワークを研究するカナダの森林生態学者スザンヌ・シマードの仕事を紹介する。
オールソンは2015年、ロサンゼルスで開かれた都市土壌会議で、菌根ネットワークについて語るシマードの話に感動したという。
その後も各方面で取材を重ね、考察を深めて、「人間社会とその周辺で生き物と生態系を団結させるような協力関係、そして互いのためになる結びつき」を知ってもらうために、この本を書いた。
互恵、たとえば菌根共生とは、これまでに何度も紹介しているが、こういうことだ。
菌が土中のリン酸や窒素を、菌根を通して宿主である植物に供給する。宿主は光合成で得られた炭素化合物を、菌根を通じて菌に供給する。
土中での、この「もちつもたれつの関係」は地球を覆う緑の8~9割に及ぶ。つまり、菌根が地球の緑を支えている。
そのことを知ったとき、自然が、世界が違って見えた。菌根共生の先行研究者の一人が、オールソンが紹介するシマードなのだろう。
シマードの本とは別に、ここ4年の間に読んだ菌根菌関係の本(訳書を含む)を列挙してみる。
▷斎藤雅典編著『菌根の世界――菌と植物のきってもきれない関係』(築地書館、2020年)
▷その続編=『もっと菌根の世界――知られざる根圏のパートナーシップ』(同、2023年)
▷高田宏臣『土中環境――忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技』(建築資料研究社、2020年)
▷マーリン・シェルドレイク/鍛原(かじはら)多恵子訳『菌類が世界を救う』(河出書房新社、2022年)
原発事故以来、森に入ってじかにキノコと会う機会が減った。代わりに、本の森を巡ってキノコに思いを巡らせる。その過程で菌根ネットワークを知った。
オールソンが『互恵で栄える生物界』で紹介したシマードの本も図書館にあった。『マザーツリー』
研究者として突き止めた菌根ネットワークと、女性としての個人史をからめた大作だ。いずれ紹介したい。
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