2008年3月14日金曜日

左助と左吉


3月14日朝6時半、いわき市平・塩の夏井川岸辺。
「ハクチョウおじさん」のMさんが「コーコーコーコー」と大声を出してハクチョウを呼ぶ。すると、ハクチョウが一斉に羽ばたきだし、鳴き声を発して岸辺に密集する。「芋を洗う」どころの騒ぎではない。たじろいでしまうくらいのにぎやかさだ。

ピーク時には300羽以上いたハクチョウだが、今は
「200羽くらいですか」
「そう、カモもだいぶ減ったね」
くず米と賽の目に切ったパンを夫婦でまきながらMさんが言う。

「『左助』はどこですか」

「左助」というのは左の翼を折って飛べずに残留しているコハクチョウのことだ。上流から流されてきた「左助」が呼び水になって、塩が夏井川第三の越冬地として定着した。塩にはほかに、左の翼を傷めた「左吉」、右の翼を傷めた「左七」が残留していて、3羽が2羽と1羽に分かれたり、また一緒になったりしながら、夏の暑い盛りを耐えしのんだのだった。

「『左助』はあそこ」
Mさんが指さした方を見ると、いた。左の翼がだらりと下がっているので、分かる=写真。が、歩き方が変だ。ピョコタンピョコタンしている。
「左の足が悪い。年取ったからかな」
「前からなんですか」
「そう。まだ歩けて、泳げるからいいが」
Mさんは「左助」が気になってしかたがない。

「左吉」が近くを横切った。
「『左吉』は痩せてんだ。『左七』は分からなくなった。傷が治って飛んでったのかもしれないなぁ」
「左七」は前から5メートルくらいは羽ばたくことができたから、飛ぶ力が回復したのか。そうだとしたら結構なことだ。

これから日を追ってハクチョウの数は減り続ける。えづけの時間の騒々しさがうそのように静かになって、「左助」と「左吉」だけになる。その日も近い。

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