2008年3月22日土曜日

命どぅ宝


新垣勉のCD『命(ぬち)どぅ宝』=写真=をいわき総合図書館から借りて、車の中で聴いている。CDを借りられる期間は本と同じ2週間だが、枚数は2枚までだ。著作権の関係で制約があるのだろう。

なかに東京空襲60年「愛と平和のひろば」イメージソング、「青い空っていいな」が入っている。作詞は安増武子、作曲・編曲は淡海悟郎という人だ。

詞の2連目に体が反応した。


青い空っていいな
でもあのとき東京の空は赤かった
燃える炎が天を衝(つ)いて夜空を染めた
灼熱地獄に苦しみながら罪なき人が
数十万も闇の中に消えていった


3月1日にこの欄で「大火事の夜」を書いた。還暦同級会に、小学2年生のときに体験した大火事の夜、どこへどうやって逃げたか、同級生に「取材」した話だ。
「あのとき東京の空は赤かった/燃える炎が天を衝いて夜空を染めた」
半世紀前の「あのとき」がやはりそうだった。
「あのとき常葉(現田村市常葉町)の空は赤かった/燃える炎が天を衝いて夜空を染めた」のだ。

30歳のころまで、大火事の夜の記憶が不意に押し寄せてくることがあった。それで21か22歳になるころ、こんな詩を書いた。


むかいの河を見な 軟弱の火がふかい胎をよび ひとりの女のために いま 地球の眼のなかで 男たちは 水のないさむい臍を歌にうたつてるんだ
でれでれ笑う 酒くさい火の種子は いつたい 何処(ど)つからきた オロチのように 貪婪で火があるならば 風が死ぬとかまどに封されて なぜ 眠るしきやあない?
血なまぐさい入道雲に かつて 梯子があつたころ みだらな火を 神からあの男たちが盗んだのよ それが唯一のはじまりだつたのよ
蛇の恥毛や 血塗りの卵を 土星の藪にかくすこと おまえの指は ひかりのなかで 暗躍する
かなしみの眼の水深を あんたは 測れない あんたの絶望は 太陽のまつくろな情痴そのもの <しめつ せよ オロチのめだま みずさしよ くうきをもやすちようちんよ> 焼きもどすのね 地球よりひろい密室を いつしゆんに
さびしい蛇なのよ はなよめは だから 地獄の意志で うたうのよ 地球をうめた骨盤で 菫のような水をのむ おいでおいでを あの 臍の予言を そのときよ 羞恥をすてた恥に 武装させるのは もえる舌の波動にも けれど 微熱の地球は ふりむかない
オロチより さらにはげしく火を吹いて にくたらしい放火魔に あんたはなるんだわ 劣弱を暗示したきよじんより もつとがんこな右手となつて 菫いろした盗みをはじめなさい
おお! おまえは何を知つている おまえの饒舌は 星のない地球のまひるそのもの 太陽の背は いつもあつく ふりむかぬ ひとりの女のために 呪われた眼は呪われてあれ おまえの血は 一滴もまだ 空に ながれていやしないんだ
菫のさんげきは 何処つか 明るすぎるわ だけど 自爆した潜水の夢のかけらは なんばんめの指で いつたい かき集めたらいいのでしよう?
だしぬけの風景に 仕組まれた 火の暗黒を 若い地球のでつち上げだと 男たちの さざなみは いうのです
女の波だつたかみの毛は 岩をわる導火線 あるいは高圧線でも 何でもない むしろ悲惨と栄光は まき毛の<闇ニ向ツテシタ話>
沈め 橋 夢のたつまきで建立された橋(夢みがちな 冬の暴力を 乳首も うたえ)
ついに邪悪な火 ついに放火魔 ついに未来だ さても 思い出


詩を解説しても始まらない。ただ、あまりにも暴力的な火に圧倒され、うちのめされて、震えているしかなかった――その感覚だけは分かってもらえるだろうか。今も空襲や大地震のニュースに接するたびに、子供の私と同じ子供がそこにいる、という気持ちに襲われる。

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