2008年3月23日日曜日

三春ネギの苗床


夏井川渓谷(いわき市小川町上小川字牛小川)にある畑は、極寒期には表土が10センチ近く凍る。生ごみを埋める穴を掘ろうにも、スコップでは歯が立たない。そこで、時間があれば太陽が少し土を解凍する午後まで待つ。時間がなければツルハシで凍土を割るか、落ち葉をためた堆肥わくに散らすか、する。

畑といっても10メートル四方程度のミニ菜園だ。秋に種をまいた白菜が30株ほどできた。白菜漬けにして食べるのだが、夫婦2人には30株は多過ぎる。防寒用に鉢巻をして、大半を畑に残した。
畑のそばにある「無量庵」は、ふだんは雨戸を閉めたままで人の気配がない。それをいいことに、1月の後半になるとヒヨドリが来襲を始めた。結果はヒヨドリと人間とで白菜を分け合った、という話は前に書いた。

その菜園の一角に、秋に種をまいた「三春ネギ」の苗床がある。菜園で越冬した野菜は白菜とこのネギ苗だけだ。

土の凍結予防と雑草対策を兼ねて苗床に籾殻を敷いたが、それだけでは足りない。土が凍るとネギ苗も先端が霜枯れて黄色みを帯びてきた。そうして極寒期を耐えたネギ苗は今、本来の青みを取り戻し、ボールペンの芯ほどの太さに生長した=写真。定植するのは5月。それまでは苗床で生長するのを見守ることになる。

ところで、なぜ牛小川で「三春ネギ」なのか――だが。

牛小川の集落では、おのおの自家消費のために自分で種を採って「三春ネギ」を栽培している。いわゆる地ネギ(伝統野菜)である。

何年か前、「無量庵」の近所のトシオさんの家でごはんをごちそうになったときのことだ。ネギと馬鈴薯のみそ汁を口にしたとたん、子供のころに食べたネギと同じ味がして感激した。ネギが甘くて軟らかい。聞けば「三春ネギ」だという。

私は田村郡(現田村市)常葉町で生まれ育った。実家に確かめたら、やはり昔は「三春ネギ」を食べていた。いわき市で暮らすようになってからは、店で売っているネギがどうにもいただけない(味もそっけもない)、と感じていたので、ここは「三春ネギ」を握って離さないようにしなくては――と、気持ちを集中した。

で、まずはトシオさんからネギ苗を譲ってもらい、「三春ネギ」の栽培を始めた。翌年からはネギボンコ(ネギ坊主)から種を採った。が、保存の仕方が悪くて2年続けて失敗した。最初は長梅雨の湿気で種が腐り、2回目は廊下に置いておいて駄目にした。秋の種まき時まで冷蔵庫に保管しておく、と知ったのは3年目である。これでやっと発芽させることができた。それから少しずつ栽培・自家採種にも慣れ、「曲がりネギ」にする仕方も聞きかじって、まねをするようになった。

さて「三春ネギ」には、「産地が田村郡三春町」であるということだけでなく、「三春から伝わって来たネギ」という意味もあるのではないか――。私は、今はそう思っている。

牛小川はいわき市川前町をはさんではいるが、田村郡小野町に近い。夏井川でいえば上下流の関係だ。川に沿って道が続いている。「三春ネギ」はこのルートをたどって牛小川までやって来た。それは間違いないことだろう。

では、「三春ネギ」とはどんな品種か、という話は、後日にしたい。畑仕事があるので、きょうはここまで。

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