夏井川渓谷は落石の常襲地帯だ。東日本大震災では、あちこちで落石・土砂崩れが起きた。5年たった今も、ソネ(峰)の直下、あるいは中腹が崩落して赤茶けた岩盤を見せている。
隠居の対岸に限っていえば、150メートル前後の谷底から600メートル余の山頂まで、標高差はざっと450メートル。もっと下流ではその差がさらに大きくなる。標高は低くても「深山幽谷」(V字谷)の様相を呈する。岩盤が至る所で露出している。風化してもろくなっているところも少なくない。
V字谷に散在する小集落をつなぐのは県道小野四倉線。急傾斜地は落石を防ぐためにコンクリート吹きつけが行われるか、ワイヤネットが張られるかしている。ときどき落石の痕跡がある。小は大人のこぶし大、大はサッカーボール大の石が道端に転がっている。
昔、大規模な崖崩れが起きたところにロックシェッドが設けられた。今、その補強工事が行われている。隠居の対岸、谷寄りの岩盤があのとき(2011年3月11日)にかなり崩落した。今は砕かれたかけらが巡視路のそばに積み上げられている。
祖父から「ここはジャクヌケ」「ここは〇〇のボッケ」などと実地に教えられたという知人がいる。「ジャクヌケ」は土石がヘビのように崩れ落ちた(落ちてくる)場所。土石流が起こりやすい沢だろうか。「ボッケ」は小高い丘。マツタケ採りは道なき道を動き回る。そういうときの目安になるのだろう。V字谷はそんな場所だらけだ。
隠居の対岸は、奥山より目前の中腹が怖い。ある日、対岸から轟音がとどろいた。木々がワサワサ揺れた。落石だった。あとで確かめたら、30センチ大の石が4、5個、巡視路に散乱していた。
夏井川渓谷には、下流から江田・椚平・牛小川の3集落がある(小川町分)。あるとき、椚平を通過しようとしたら、対岸のソネが崩落して赤茶けている=写真=のに、助手席のカミサンが気づいた。最近崩落したのか、前に崩落したのかはわからないが、赤みが強い。ということは、震災後だ。
いずれにしても、夏井川渓谷は日常的に落石・岩盤崩落を繰り返している。「絵はがき」の世界ではない。危険地帯に身を置いているという自覚が欠かせない。
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