3000メートル級の山々に囲まれた中央アジアの大秘境で暮らす人間を追ったドキュメンタリー番組だ。昔、シルクロード交易を支配したソグド人の末裔といわれる「幻の民」だそうだ。父親は羊を飼っている。大きい子ども2人はまちの学校へ行っている。その2人が休みで帰って来る。家の仕事を手伝う。自給自足に近い暮らしだから、自然の恵みを最大限に利用する。
父子が斜面を歩いていると、草むらに白いキノコがあった。食菌らしい。子どもがそれを採る=写真上1。地面からニョキッと生えている。柄は短い。写真を拡大すると、傘がゴツゴツ・ギザギザしている。傘裏は管孔かもしれないが、ひだのような“筋”にもなっている。日本の図鑑には載っていないキノコだ。ネットでも確認できなかった。
父子は次に、“野生ネギ”を刈り取る=写真上2。丈は短い。切り口は空洞になっている。“葉ネギ”だ。映像を見る限りでは、“野生ネギ”は株になって群生していた。斜面一帯が“野生ネギ”で覆われている。その場面でテロップが流れた。「もう十分採れたから終わりにしよう」=写真下。
野生ネギの存在を裏付ける情報はないものか――。20年近く前、同じNHKの取材班に、解説者として同行した藤木高嶺大阪女子大教授(元朝日新聞記者)=当時=を紹介する文章に出合った。“野生ネギ”の話が出てくる。
まだ現役の記者だった1981年、藤木さんはある登山隊に同行取材をした。4200メートルのベースキャンプに近い草原で寝転んでいたら、ネギの匂いがした。「10センチを越える野生のネギが群生していた。引き抜くと、白いところが10センチぐらい」あった。
藤木さんは帰国して、新聞に「秘境のキルギス――シルクロードの遊牧民」と題する連載記事を書いた。パミール高原=中国名は「葱嶺(そうれい)」=のネギの話も紹介したのだろう。「蔬菜(そさい)に詳しい植物学者K氏から、『ネギは中国西部が原産地といわれているが、野生種のネギは未発見だ。葱嶺のネギが野生種だったら、植物学上の大発見だ』という連絡を受ける。(パミールが「葱(ねぎ)の生える嶺」とは、イミシンだ)
藤木さんはその後、再び現地を訪れる機会があった。同じ場所に“野生ネギ”が群生していた。紫紅色の美しい花までつけていた。標本を集めて持ち帰り、K氏とともに植物学の権威(東大名誉教授)を訪ねて調べてもらったら……。中国名「太白韮(たいはくにら)」に最も近いということだった。つまり、ネギではなく、ニラ。
その伝でいうと、BSプレミアムの“野生ネギ”も、ニラの仲間、かもしれない。ネギ坊主のかたちを見ると、チャイブに近いような……。チャイブもネギの一種には違いないが。
現地の人たちにとっては、ネギでもニラでもかまわない。身近なところで得られる自然の食材だ。が、ネギのルーツを知りたい人間には、「おおっ!」と「そうかな?」の間で揺れ動く番組だった。
0 件のコメント:
コメントを投稿