2019年11月15日金曜日

台風19号㉜浸水区域図

「背が立たぬ 母連れ外へ そこは濁流/孝行息子に雨は無情/台風19号 いわき」。字余り俳句のような見出しだった。記事には、後輩の母親と後輩ら子ども2人の「そのとき」の様子が記されていた=写真下。自責する兄(71)、気遣う弟(65)のことばに、目が潤んだ。
きのう(11月14日)の朝日新聞福島版――。母親は97歳。平屋建ての家で、車いすの生活を余儀なくされていた。食事やトイレには助けが必要だ。後輩の兄はここ2年、毎晩、母親の自宅に泊まって母親の介助を続けた。

10月12日夜、台風19号の大雨で床上浸水が始まった。翌朝4時ごろ、水は背丈を越えた。「もうダメだ」。後輩の兄は母親と一緒に脱出することを決意し、近くの夏井川の堤防へと、水に浮くマットレスに母親を乗せて泳ぎ出した。後輩は、兄からの電話で海水パンツをはいて救助に向かう。しかし、堤防から車のヘッドライトを照らして逃げる方向を伝えることしかできなかった。母親と兄はたちまち濁流にのみ込まれた。

母親は3日後、下流で、遺体で見つかる。後輩の兄はさらに下流で救助され、低体温症で2週間入院した。
  兄は悩む。「意識ある人間を連れ出して、川の中に放り出してしまった。おれの責任は相当ある」。弟は兄を気遣う。「家を出て5、6秒。あっという間に流された。兄は親孝行で母親の面倒をよくみていた。母親を助けようとしてやったことだ」。――目の前で母親を失った2人の心情がよくわかる記事だった。

先に、いわき市が「浸水区域図」(暫定)を公表した。夏井川水系は、扇状地の小川町から支流の好間川、新川を含めて、いわき駅を中心とした市街地周辺の北西~西~南西部がピンクに染まっている=写真上。

そこに、川の越水、決壊ポイントを重ねてみる。本流の蛇行、現地の地形、土地利用などは、前に住んでいたところ(下平窪)だけでなく、わが生活圏の周縁でよく行ったり来たりしているので、おおむね頭に入っている。これに、フェイスブックで知った画像や文字情報を加えると、濁流と浸水のすさまじさが想像できる。いや、そうして洪水の状況を立体化、可視化しないことには水害の実態がよくわからない。

夏井川の本流だけに限っても、小川町で右岸1カ所・左岸2カ所が決壊した。そこから下って、平・赤井の右岸で越水、さらに下流の平・下平窪では左岸3カ所が決壊、さらに下流左岸、平・鯨岡で決壊と、人口集中地域で水害が発生した。

水害区域図では、北西から南東へ下ってきた夏井川が東進するあたりで無印になる。その無印のところにわが神谷地区がある。たまたま今回は無印に終わった。色の範囲が左(西)ではなく、右(東)にきていてもおかしくなかった。

後輩の母親の家は、夏井川左岸のピンクの先端部、駅から平橋を渡って平商業高校へと向かう、その橋の左岸たもとにある。そばの夏井川よりは、堤防をはさんだ山側(住宅地と田畑が続く)の上流・平窪方面から中塩、幕ノ内へと濁流が広がり、家々を浸水したのだろう。

下平窪ではカミサンの同級生の家が、それに隣接する下流・中塩では知人の娘さんの家が浸水した。それらをつなぐと浸水区域の広さが浮かび上がる。

テレビのうしろの壁には2011年3月のカレンダーが張ってある。この浸水区域図も、戒め・教訓としてそこへ張ることにする。

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