2021年1月23日土曜日

「浦島太郎人生」

                     
 ゴキブリを大事にすることが自然環境を守ることにつながる――。アクアマリンふくしまの安部義孝館長はそう強調する。身近な生きものたちとの共生へと暮らしの質を切り替えよう、ということだろう。

安部さんはいわき地域学會の顧問でもある。同学會の第359回市民講座が1週間前の1月16日、市文化センター大会議室で開かれた。「私のフィッシュストーリー・浦島太郎人生」と題して、安部さんが話した=写真。会員ら25人が受講した。

 安部さんは最初、上野動物園水族館に勤めた。のちに葛西臨海水族園、アクアマリンふくしまの立ち上げにかかわる。自身の「水族館人生」を振り返りながら、コロナ禍を機に自然とのつきあい方を見直そう、と訴えた。そのなかで強調したのが冒頭のゴキブリ愛護論だ。

 ゴキブリは「害虫」のレッテルが張られている。家でゴキブリを見つけると、すぐ「キャッ」となって「シュッ」とやる。農薬や殺虫剤使用がめぐりめぐって環境汚染を招く。安部さんは一時、多摩動物公園昆虫館に籍を置いた。そのときの経験から、ゴキブリがかわいく見えるようにならないといけない、とも語った。

 安部さんの話を聴きながら、昔、カミサンが言っていた、アメリカだったかの“ことわざ”を思い出した。「わが家はウジがわくほど不潔ではないが、ハエが一匹もいないほど清潔でもない」。清潔志向にも限度がある。ゴキブリとの共生から始まるくらいの“ゆるさ”が人間にはあっていい、ということなのだろう。

 当日配られたレジュメから、コロナ問題を語った部分を要約する。「なぜ地球規模で『新型』コロナウイルスが蔓延したのか。環境水族館の考えでは、生物環境の劣化が根底にある。ウイルスを抑制する生物多様性の劣化が地球規模で進行したにちがいない」

 人間は自然を収奪し、快適で便利な暮らしを追い求めてきた。その結果、地球温暖化が加速し、風水害が多発するようになった。それに加えて、2011年には地震と津波の激甚災害が起きた。安部さんは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)も自然災害だという。

 私はキノコに引かれるものだから、このごろは野菜の種子よりもキノコの胞子から世界を、いのちを見るようにしないといけない――そう思うことがある。安部さんはそれをさらに進めて、ウイルスのレベルから考えよう、といっているようだ。

レジュメの続き――。「環境水族館」アクアマリンふくしまは、「海・生命の誕生」の映像から始まる。46億年前の地球誕生、38億年前の生命誕生、つまりはウイルスと細胞と原子生物の映像だ。

「私たちは、このコロナウイルスの蔓延は、38億年前の先カンブリア紀の生命誕生にかかわる災害であることを再認識しよう」。それが「浦島太郎人生」を生きた安部さんの目下の結論だ。

そういうスケールでモノゴトを考えれば、台所に現れるゴキブリだってかわいい、と思う人間になれるかもしれない。蚊取り線香でいえば、せき込むほど強烈な香りを発するものでなくていい。蚊を殺す必要はない、遠ざけるだけでいいのだ。

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