「猫にまたたび」ということわざがある。非常に好きなもの、あるいはそれを与えたら効果が著しいことのたとえに使われる。
マタタビの枝葉を猫に与えると、顔をすりつけたり、体をこすりつけたりする。のどをゴロゴロ鳴らす猫もいる。そのワケを岩手大や京都大(別の記事では名古屋大も)の研究チームが解明した。「蚊よけ」のため、というのが「結論」だ。
新聞=写真=によると、マタタビに含まれている成分の一つ、ネペタラクトールに猫が反応した。この成分は蚊を寄せ付けない効果を持つ。研究チームは「マタタビ反応は寄生虫や病気を運ぶ蚊から身を守る重要な行動」と結論付けた。しかし、「ネコがマタタビで酔ったようになる陶酔状態の関連性はわかっていない」という。
10年前、つまりは東日本大震災がおきたとき、わが家に猫が3匹いた。よぼよぼの「チャー」と若く元気な「レン」の茶トラ雄2匹、それにターキッシュアンゴラの雑種らしい雌猫「さくら」だ。さくらは不妊手術のせいか、ぶくぶく太ってしまった。
ほんとうに「猫にまたたび」なのか、山からマタタビの枝葉を採って来て確かめたことがある。チャーとレンは反応したが、さくらは見向きもしなかった。
最初の記録は震災前の2009年6月中旬。チャーがのどを鳴らして恍惚感にひたった。以来、マタタビ反応が面白くて、ときどき採って来ては与えた。
マタタビの葉を花瓶に生けたとき、レンが葉をむしゃむしゃ食べ始めたのには驚いた。猫の食生活がキャットフード一辺倒になってなにかが狂い出し、マタタビの匂いだけではあきたらずに、より強い刺激を求めて葉を食べるようになった? いや、ストレスがたまっていたので精神安定剤の代わりに“服用”した? 若い雄猫の行動にはいろいろ考えさせられた。
次の記録は4年後の2013年7月。そのレンでさえ、マタタビの葉にそっぽを向く。さくらもクンクンにおいをかいだあと、やはりそっぽを向いた。「猫にまたたび」どころか、ただの「猫とマタタビ」だった。
ネコ科の動物は繁みに潜んで獲物が来るのを待つ。繁みには蚊が多い。蚊よけ効果のあるマタタビの枝葉を顔にこすりつけるワケはわかった。しかし、媚薬に酔ったようになるワケを、ほんとうは知りたいのだ。
「猫にまたたび」は、人間が猫を観察して気づいたことだろう。人間がたわむれに与えたというよりは、猫がどこからかくわえて来て、人間の前でゴロニャン、ゴロニャンとやった。枝葉の正体はとみれば、マタタビだった――というわけで、「猫にまたたび」という言葉が社会化されたのではないか。
そこからの想像だが――。野生の猫が獲物を狙うために「蚊よけ」としてスリスリやったのが、ペット化する過程で実用性が薄れ、しかし獲物を狩るという本能を失わないために、「陶酔」感を伴うスリスリに代わっていった、なんてことはないか。進化か退化かはともかくとして。
マタタビの蚊よけ効果がニュースになって1週間後、今度は化粧品に使われるシリコーンオイルに蚊よけ効果があることを、花王の研究チームが実験で確かめた、という記事が載った。こうなると、「猫にまたたび、人間にシリコーンオイル」か。いや、「猫にまたたび、人間にもまたたび」でもいい。
蚊にチクリとやられた最初の日と最後の日を記録している人間としては、読み捨てにできない記事だった。
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