「台湾」と「鉄道」の文字に引かれた。6月中旬、新聞の読書欄に、楊双子/三浦裕子訳『台湾漫遊鉄道のふたり』(中央公論新社、2023年)=写真=が紹介されていた。
図書館のホームページでチェックすると「貸出中」だった。後日、また確かめたら「貸出中」が消えていた。急いで借りて来た。
日本が台湾を統治していた昭和13年5月、「内地」の日本から作家青山千鶴子が台湾へ講演に訪れる。
植民地政策の例にもれず日本語教育が行われているとはいえ、講演には通訳が必要だった。台湾の高女を卒業して、「本島人」(台湾の人間)が通う公学校で先生をしている若い女性、王千鶴が通訳として作家に同行する。
2人は台中市を拠点に、台湾縦貫鉄道(基隆~高雄)を利用して移動する。竹南駅―彰化駅間には「山線」と「海線」があり、「山線」は台中が主要都市なので、「台中線」と呼ばれた。
日本統治下の台湾という時代設定が意想外だった。そこから逆に日本と台湾の関係が照らし出される。
支配する日本、支配される台湾。それを通奏低音にしながらも、小説に描かれる物語は痛快そのものといっていい。
小説は全12章立てで、すべてが「瓜子 瓜の種」「米篩目 米粉の太うどん」「麻薏湯 黄麻の葉のスープ」といった食べ物のタイトルになっている。そう、日本のテレビ番組でいうところのグルメと旅番組、それをごちゃまぜにしたような構成だ。
本文に「米篩目」は「ビータイバッ」、「麻薏湯」は「モァーイータン」とルビが降ってあるので、現地の食べ物だとわかるが、それがどういう味で、どんな形をしているのか、までは想像がつかない。
青山千鶴子の食欲はすさまじい。自他ともに認める「大食いの妖怪」だ。千鶴もまた食いしん坊のようだ。
それを知ったときの青山千鶴子の驚き。「私みたいな大食いの妖怪の仲間など、この世に存在しないだろうとずっと思っていた。/『千鶴ちゃん、これは運命の出会いよ!』/私は思わず立ち上がり、大声で宣言した。/『いっしょに台湾を食べ尽くしましょう!』」
小説を読み始めてすぐ、『放浪記』の作家林芙美子が頭に浮かんだ。小説中に、青山千鶴子は「青春記」の作者で、『青春記』は映画にもなった、とある。
それからの連想だったが、「訳者あとがき」に青山千鶴子のモデルは林芙美子とあって、「やっぱり」と思った。
台湾へは仲間と2回出かけた。2回目は新幹線で台北から高雄へ出かけた。途中、台中で下り、山手の日月潭を巡った。
そんなことを思い出しながら、食べ物の描写に引かれて読み進めた(「小籠包」の章がないのは残念だったが)。
統治された側の複雑な思い――。これこそが「千鶴ちゃん」を通して、作者が訴えたかったことなのだろうと、後半になって思いが至る。そう、逆に言えば台湾の「原風景」が見えてくるような物語だった。
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