図書館の新着図書コーナーに変わったタイトルの本があった。一橋和義著『ナマコは平気!目・耳・脳がなくてもね!――5億年の生命力』(さくら舎、2023年)=写真。
ナマコといえば、「このわた」。腸を材料にした塩辛を思い出す。江戸時代から「天下の珍味」として知られる。
何年か前、小料理屋で初めて口にした。塩辛は好まないのだが、こりこりした舌触りが口に合った。磯の香りもした。なるほど「天下の珍味」だわい、と思った。
家に、磐城平の専称寺(元・浄土宗名越派総本山)で修行した出羽国出身の俳僧一具庵一具(1781~1853年)の掛軸(句幅)がある。
「梅咲(き)て海鼠腸(このわた)壺の名残哉」。春を告げる梅が咲いた、壺に入っていた「このわた」も減ってこれが最後か、名残惜しいなぁ――とでもいう意味だろうか。
初代のいわき地域学會代表幹事・里見庫男さん(故人)から、「研究の材料に」と古書市場で入手した一具自筆の掛軸をいただいた。
生地の山形県村山市で発刊された村川幹太郎編『俳人一具全集』(同全集刊行会、昭和41年)も届いた。
全集を参考に一具の字を読み解いたこと、実際に「このわた」を口にしたことなどを思い出すと同時に、ナマコの本に手が伸びた。
タイトル同様、本文も変わった構成だ。「ナマコの魅力をお伝えすべく、物語ふうにし、解説を取りこむ形に」したら、擬人化した軽妙な会話文体になった。
ま、それを読んでわかったことを、ほんの一部だけ紹介すると――。①本のタイトルにもあるように、ナマコには目・耳・脳がない②ストレスを感じると、内臓をすべて尻から出す(「吐臓」という=内臓はやがて再生される)③「マナマコ」は夏になって水温が20度近くまで上がると、深い場所にある岩の窪みなどにもぐって、「夏眠」をする――のだとか。
このナマコが中国では殊の外好まれる。「いりこ」(干しナマコ)が中国で高く売れるというので、東南アジアやオーストラリア、朝鮮、日本などではナマコ漁が行われ、ゆでて中国へ輸出した。
それだけではない。ヨーロッパの国々も参入した干しナマコを扱う「ナマコ経済圏」が生まれ、ナマコを中心とした国際的取引、交渉が発展し、多くの干しナマコが中国に運ばれていたという記録もあるのだとか。
さて、今度の東電の「処理水」放出にからんで、中国は日本産の水産物を全面的に禁輸した。農水省の統計を引用した報道によると、2022年、中国への農林水産物・食品の輸出額は2782億円、うち水産物は871億円に上った。
主な品目では、ホタテ貝が467億円、ナマコ(調整)が79億円、カツオ・マグロ類が40億円だという。
ナマコの本には、こうした輸出増加を受けて「沖縄本島や石垣島、周辺離島の近海に多く生息していたナマコが近年激減」したとある。ナマコの目になると、日本(特に北海道)、そして中国の風景が違って見えてくる?
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