月に1回、移動図書館がやって来る。カミサンが図書館と住民をつなぐ地域図書館を運営している。その本の入れ替えが行われる。
自分の好みで借りる本と違って、思いもよらない本が並ぶ。「老い」や「女性」、「料理」……。自然科学系の本もたまにある。
田島木綿子著『海獣学者、クジラを解剖する。――海の哺乳類の死体が教えてくれること』(山と渓谷社、2021年)=写真。これはまた意想外な本だ。
「解剖」「死体」とくれば、沿岸に漂着して死んだ(あるいは死んで漂着した)クジラを思い出す。
今年(2023年)の大型連休中(5月3日)に、いわき市平沼ノ内地内の海岸にマッコウクジラの子どもが漂着した。その記憶がよみがえる。ぜひとも読まねば――。
ネットに残るニュース記事によると、同日早朝、沼ノ内の海岸にクジラが1頭打ち上げられていると警察に通報があり、アクアマリン(小名浜)の獣医師が死んでいるのを確認した。
その時点では、性別は不明。やせ細っており、病気でえさを食べられずに衰弱した可能性がある、ということだった。
翌日、国立科学博物館や大学などの研究者が調べたところ、体長は約7メートル、10歳以下の若いオスで、死因は特定できなかったという。
その際、筋肉と下顎骨が試料として採取された。アクアマリンも同じように、試料として胃などの内臓を採取した。クジラはその後、同海岸に埋められた。
田島さんは国立科学博物館に勤務するクジラ学者で、「世界一クジラを解剖している女性」だそうだ(同書)。
今度も現地に来たのかもしれないし、調査のための連絡調整に携わったのかもしれない。以下は、本を読んで強く印象に残ったこと。
クジラなどの海洋生物が浅瀬で座礁したり、海岸に打ち上げられたりする現象を「ストランディング」という。英語の動詞「ストランド」(座礁する)からきているそうだ。
このストランディングが、クジラやイルカなどの海の哺乳類に限っても、国内では年間300件ほどある。
ストランディングの原因としてわかっていることは、①病気や感染症②えさの深追い③海流移動の見誤り――などで、大型個体になればなるほどその大きさと重さが問題になる。
「水中にいる間は浮力のおかげでその巨体も難なく動かすことができるが、いったん陸上に上がってしまうと、重力の影響で自らの体重を支えることができず、肺などの臓器が押しつぶされ、そのまま放置されれば、瞬く間に死に至ってしまう」
赤ちゃんクジラの胃からプラスチック片が見つかった例もあるそうだ。
直径5ミリ以上のプラスチックごみを「マクロプラスチック」、それ以下を「マイクロプラスチック」という。
近年、プラスチックごみによる海洋汚染が世界的に問題になっている。沼ノ内にストランディングした若いクジラはどうだったか。
死因を調べることで海洋の環境もわかる、という意味では、このストランディングを無駄にはできない。
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