日曜日は夏井川渓谷にある隠居で過ごす。といっても、このごろは暑さがこたえるので、長居はしない。ほんの少し土いじりをしただけですぐ帰る。
隠居の母屋と風呂場はトイレ・洗面所の廊下をはさんでコの字につながる。コの字に囲まれた空間が坪庭になっている。
この坪庭にせり出した風呂場の軒下を、たぶん何十年も前からキイロスズメバチがすみかに選んできた。巣が雨にぬれる心配がない。これが場所選びの一番のポイントだろう。
ここ3年ほどは古巣が三つ残っているだけだった。ところが8月4日の日曜日、母家の雨戸を開けると坪庭をキイロスズメバチが飛び交っていた。
こんなことは今年(2024年)初めてだ。1週間前には全く気がつかなかった。風呂場の軒下には、新しい巣はない。
母屋の軒下はどうか。おそるおそる見上げると、雨戸の戸袋の上、軒下の垂木にソフトボール大の巣ができていた=写真。
茶色に白色の筋が入った、いかにもキイロスズメバチらしい「練り込み」状の巣だ。働きバチが真下の穴を出入りし、数匹が巣の外側に取り付いていた。
この坪庭で草むしりをしていたとき、カミサンが手をチクリとやられた。やけどのような痛みが収まらないので、磐城共立病院(現いわき市医療センター)の救命救急センターへ連れて行った。
「今度刺されたら、すぐ救急車を呼ぶように」。アナフィラキシーショックを念頭に置いたドクターの言葉が今も頭から離れない。
キイロスズメバチはこのとき、軒下ではなく、風呂場の板壁のすき間に営巣していたようだ。
秋にハチに刺される事故が急増するのは、こうした予想もしない場所でハチと遭遇したときだろう。
神社や山道の土手の草を刈っていたら刺されて死んだ――そんな事故がテレビや新聞で報じられると、つい軒下の巣を思い浮かべる。
今回も巣を見て反射的にハチ刺され事故を思い浮かべたが、しかしこれまで軒下のスズメバチが襲ってきたことはない。
雨戸を静かに開ける。巣の近くのガラス窓を閉めたままにしておく。坪庭での水仕事も、かがんでハチを刺激しないようにする。たぶんこれだけで、ハチは上空にとどまっている。
隠居の軒下にできたキイロスズメバチの巣は、これまでサッカーボールくらいの大きさが最大だった。
11月末に「空き巣」になったところを「家宝」としてはぎ取り、床の間に飾った。とはいえ、簡単にははずれなかった。
脚立を持ち出して古巣に触れ、手で動かそうとしたがびくともしない。すごい接着力だ。
結局、巣の根元を壊してはぎとったが、巣は何層にもなっているらしい。一層一層は紙のように薄くてもろい。雨に弱いから軒下のようなところを選ぶしかないことが納得できた。
キイロスズメバチは危険だが、空き巣は優雅で堅牢、芸術的でさえある。そんなことを思い出しながら、静かに、ゆっくり雨戸を閉めて隠居を離れた。
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