2024年8月8日木曜日

北欧デザイン

                     
 いわき市立美術館で開かれている企画展「フィンランドのライフスタイル――暮らしを豊かにするデザイン」は8月18日までだ。

 いつでも行けると思っているうちにいろいろあって、今になった。8月最初の日曜日、夏井川渓谷の隠居へ行った帰りに美術館をのぞいた。

 スウェーデンやフィンランドなどの北欧の魅力は、人間が自然の恵みをうまく取り入れて暮らしていることだろう。

   その根底にあるのは「万人権」、あるいは「自然享受権」といわれる考え方のように思う。

「万人権」とは、その土地の所有者や生態系に損害を与えないという条件つきながら、だれでも他人の土地に立ち入って自然環境を享受できる権利のことである。

一般の書物では、「万人権」というよりは「自然享受権」という言葉で紹介されている例が多いようである。

具体的には夏のベリー摘み、秋のキノコ狩りをはじめ、ハイキングやスキー、水浴、釣り、野営などがそれに当たる。

自然の中に人間の暮らしが溶け込んでいる。人間の暮らしの中に自然が生かされている。

美術館の企画展でも、木目の美しい背もたれイスやシラカバ細工などを見て、北欧デザインの本質に触れる思いがした。

ガラス食器なども展示されていた。フラッシュをたかなければ撮影OKというので、「リキュールボトル&グラスセット」をカメラに収めた=写真。これにはカイ・フランクという名前が付されていた。

リーフレットによれば、カイ・フランク(1911~89年)は「フィンランド・デザインの良心」と称されるデザイナーだ。

機能性と実用性、そして美しさを兼ね備えたフィンランド・デザインを確固たるものにした人だという。

あとはキノコだ。「ムーミン」の作者、トーベ・ヤンソン(1914~2001年)に『彫刻家の娘』という自伝的な作品がある。

北欧の人たちは、いやロシア、そして欧州全体といってもいいのだが、彼らはキノコが好きでよくキノコ狩りをするらしい。そういう人たちの気持ちを代弁していると思えるのが次の文章だ。

「キノコ狩りにもやりかたがある。何百年も昔からずっと、キノコは冬の朝食に欠かせない大切な食べものだといってもいい。どのキノコにもあるふしぎな菌糸をたやさないよう、キノコの生える場所を、つぎの世代の人のためにも、とっておかなければならない。夏のあいだに家族の食料を手に入れること、自然をうやまうこと、このふたつは市民の義務だ」

 自然享受権の浸透した国の日用品であるからには、キノコがどこかに描かれていてもおかしくない。そう思って見たのだが……。

 2階へ向かう階段の1階壁面に大きな写真パネルがあって、その中の1枚、林床を覆う草のなかに赤紫っぽいキノコが一つぼやけて写っていた。それしか目に留まらなかったので、キノコに関しては少し寂しい感じがしたのだった。

0 件のコメント: