2024年10月11日金曜日

朱色の小さなキノコ

          
   9月の秋分の日あたりまで「長い夏」が続いた。そのあとは一転、ぐずついた天気になって、長そでを着たり、半そでに戻ったり……。

10月に入ると「秋の長雨」に変わった。ハマ(小名浜)も、マチ(山田)も、ヤマ(川前)も、連日のように小雨が降ったり、やんだりした。

例年だと、8月後半には長雨が始まる。それで山野が湿り気を帯び、最低気温も20度を割って、秋のキノコの出番になる。

東日本大震災と原発事故が起きて以来、いわきでは野生キノコの摂取・出荷が制限されている。

夏井川渓谷にある隠居の庭は放射線量が少し高めだったので、全面除染の対象になった。

平成25(2013)年12月、庭の表土が5センチほどはぎとられ、山砂が投入された。猫の額ほどの菜園はいったん更地になった。

摂取制限がかかって以来、キノコ採りの意欲はしぼんだ。森を巡ることもしなくなった。が、土を入れ替えた庭だけは別だ。

庭の枯れ木に生えるアラゲキクラゲやヒラタケ、モミの木の根元に現れるアカモミタケなどは、ありがたくちょうだいする。

が……。この夏~初秋は気温が高くて湿りも少なく、キノコはまず期待できなかった。春のアミガサタケも、梅雨期のマメダンゴ(ツチグリ幼菌)も不作だった。

10月に入ってやっと、ジメジメして涼しくなる。それと連動して、森で出合ったキノコが思い浮かぶようになった。

マツタケは最初から頭にない。あそこと、ここ。他人のシロかもしれないが、自分のシロでもある林内を巡って、アミタケを採る人間、つまり私が脳内に映し出される。

それだけではない。渓谷の県道沿いに車が止まっていれば、「マツタケか、アミタケか。マツタケ狙いはもう帰っているはず。アミタケだな」と胸中で問答する。

いずれにしても、森には入らない。過去の“菌活”がよみがえるたびに、原発事故への怒りが倍加する。

先の日曜日(10月6日)も似たような思いを反芻しながら、土いじりをし、庭を一巡した。

すると、隠居の濡れ縁のすぐ近く、草が復活した地面に、朱色の小さなキノコが点々と生えていた=写真。径はおよそ1センチ前後。傘の中央がとがっている。

あまりにも小さいので、これまでは無視していたキノコだ。まずは写真を撮る。帰宅後、撮影データを見ながら検索を続けたら、アカヤマタケの仲間らしいことがわかった。

昔と違って今は中毒例が増え、毒キノコの扱いらしい。もとより口にはしないので、一喜一憂をすることもない。隠居の庭のキノコ図鑑に加えるだけだ。

この時期に出合いたいのは、実はアカモミタケである。道路と庭の境で生長したモミの木の根元に出る。

電線に触れるので、剪定してもらったら立ち枯れを起こしたらしい。アカモミタケはモミの根と共生する菌根菌である。

モミが枯れたらアカモミタケも……。去年(2023年)はそのせいか、発生がゼロだった。今年も期待はしない方がよさそうだ。

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