2024年10月8日火曜日

続・ノルウェーの小説

                              
   ヨン・フォッセ(1959年~)は去年(2023年)、ノーベル文学賞を受賞したノルウェーの作家・劇作家だ。

彼の小説『朝と夕』(伊達朱実訳=国書刊行会、2024年)を読んだ話を前に書いた。

 たまたま図書館の外国文学コーナーで本の背表紙をながめていたら、フォッセの小説『三部作(トリロギーエン)』(早川書房、2024年)があった=写真。『朝と夕』を読み終えたばかりだったので、余韻に誘われて借りた。

表紙カバーのそでに、居場所を探し求める17歳の若いカップル(アスレとアリーダ)の様子が描かれる。小説冒頭部分でもある。

「アスレは冷たい雨の中をさまよっていた。船に乗って故郷を離れ、海岸沿いの街ビョルグヴィンで、妊娠中の妻アリーダとともに宿をさがしていた……」

『朝と夕』は不思議な小説だった。短い第一部は誕生。生まれた男の子はヨハネスと名付けられる。そして、第二部は年老いたヨハネスの死が描かれる。生と死の物語だ。

『三部作』も簡単に説明するのは難しい。重大な「事件」(殺人)は伏せられている。アスレは「船」も、「宿」もそうして手に入れたのかと、読者はあとで知る。

ここではあらすじではなく、主な舞台となった「ビョルグヴィン」について触れたい。ビョルグヴィンはベルゲンの古い呼び名だという。

『朝と夕』を紹介したときにも書いたが、ベルゲンは首都のオスロに次ぐ、ノルウェー第二の港湾都市だ。

同級生と北欧旅行をした際、ここに2泊し、世界遺産のフィヨルドを周遊したり、港の一角にある「ブリッゲン地区」を見て回ったりした。

ベルゲンは中世、北ドイツを中心にした「ハンザ同盟」の一拠点として、「干しダラ」の一大集散地になった。

港の一角にドイツ風の木造家屋が並ぶ。すき間なく建てられた3階建て、三角屋根の木造切妻建築が特徴で、壁面がオレンジ、白、イエローと多彩な色に染まっている。それが世界遺産の「ブリッゲン地区」。ハンザ商人の住居・倉庫・仕事場だった。

『三部作』から――。ビョルグヴィンに着いた2人は夜になっても宿が決まらない。晩秋である。野宿するには寒すぎる。体は雨でびしょ濡れだ。

ベルゲンはとにかく雨が降る。メキシコ湾流の影響で湿った空気が山に当たり、絶えず雨を降らせる。

老婆が住む家に入り込むとほどなく、アリーダは産気づく。老婆は産婆だったが、もうそのときには息絶えていた。

アスレは産婆を探しに通りへ出る。別の産婆は、市場からブリッゲン波止場を過ぎて、郊外へ行ったところにいると、産婆探しを手伝った老人(実は懸賞金稼ぎ?)にいわれる。

今のベルゲン。ブリッゲンの近く、港の中央に魚市場がある。市民のほかに観光客が訪れる。私たちもそこで土産にカニ缶の詰め合わせなどを買った。

 作品の中のビョルグヴィンと現実のベルゲンが絶えず交差する。異国の港町なのに知った土地の感覚がある。外国文学で初めて既視感を抱いた。

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