菌根菌は陸上植物の約8割と共生関係を結んでいる。菌根が地球の緑を支えている――と知ったときには驚いた。
それまでは、キノコ図鑑で学んだ固定観念に支配されていた。植物は生産者、動物は消費者、菌類は分解者。シイタケやヒラタケのような木材腐朽菌がキノコの主流と思っていた。
ただし、菌類は分解するだけではない。松とマツタケのような菌根共生もある。菌類関係の本を読めば読むほど、モヤモヤした思いがふくらんでいった。
斎藤雅典編著『菌根の世界――菌と植物のきってもきれない関係』(築地書館、2020年)が、そのモヤモヤを吹き飛ばしてくれた。
まず菌根の意味だが、植物の根と菌類が共生して一体化した状態をいうそうだ。冒頭の共生関係を『菌根の世界』で学び、蒙(もう)を啓(ひら)かれた。
具体的にはこういうことだ。菌類が土中のリン酸や窒素を、菌根を通して宿主である植物に供給する。宿主である植物は光合成で得られた炭素化合物を、菌根を通じて菌類に供給する。
なぜそういう関係が生まれたのか。マーリン・シェルドレイク/鍛原(かじはら)多恵子訳『菌類が世界を救う』(河出書房新社、2022年)=写真=を読んで合点がいった。
サブタイトルは「キノコ・カビ・酵母たちの驚異の能力」。その効能としての食用・発酵・醸造などを詳述する。
同書によると、植物は約5億年前、菌類の助けを借りて陸に上がった。植物が出現する前の陸地は焦げて荒れ果てていた。温度は大きく変動した。
そのころの地球上の生命はほぼ水生生物だけだった。暖かく浅い海や沼は藻類や動物に満ちていた。
陸地は光合成ができる生物には大きな可能性を秘めていた。が、陸生植物の祖先である藻類は根を持たなかった。
その藻類が、すでに存在していた菌類と新たな関係を築いて陸に上がる。この同盟関係が現在の菌根と呼ぶ関係に進化したのだという。
言い換えれば、植物が独自の根を進化させるまでの数千万年間、菌類は植物の根の役目を果たした。今日では植物の9割以上が菌根菌に依存しているのだとか。
植物の8割どころか9割以上、つまり圧倒的多数の植物が根を介して菌類とつながっていた。
そして、その関係の始まりが5億年前だったこと、水中から陸に上がった最初の植物には根がなかったこと、菌類がその根の役目を果たしたこと……。菌根菌へと進化してきた植物と菌類の原初的な姿がようやく見えてきた。
序章ですでに核心に触れている。――菌類は10億年以上そうしてきたように生命のありようを変えている。
岩石を食べ、土壌をつくり、汚染物質を消化し、植物に養分を与えたり枯らしたりし、宇宙空間で生き、幻覚を起こし、食物になり、薬効成分を産出し、動物の行動を操り、地球の大気組成を変える。
菌類は私たちが生きている地球、そして私たちの思考、感覚、行動を理解するためのカギになる――。キノコは菌類のほんの一部の姿でしかなかった。
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