2018年7月31日火曜日

原爆神話と情報操作

図書館から立て続けに新刊の原爆関連本を借りて読んだ。ひとつは、井上泰浩著『アメリカの原爆神話と情報操作――「広島」を歪めたNYタイムズ記者とハーヴァード学長』(朝日新聞出版)=写真下。
 アメリカ国内には、「原爆は戦争を終結させアメリカ人の命を救った救世主」という「原爆神話」が根強くある。その神話化に重要な役割を果たした一人が、ニューヨークタイムズの記者だった。この記者は本業の記事だけではない、トルーマン大統領の声明や演説も起草した。

原爆に詳しい科学記者が裏では軍のプロパガンダに協力し、その見返りに原爆に関する情報を独占する。新聞社だけでなく、軍からも給料をもらっていた。隠ぺい・ねつ造・歪曲のお先棒をかついだ記者が長崎原爆投下報道などでピュリツァー賞を受賞する――。アメリカン・ジャーナリズムも日本の大本営発表も五十歩百歩ではないか、まずそんな感想を抱いた。

 戦争が終わっても、アメリカでは原爆に関する記事・写真などが軍による事前検査を義務づけられた。日本国内ではGHQによる事前検閲が続いた。

その結果、アメリカ国民は①原爆は民間人の犠牲を避けるため、事前の警告をしたうえで軍事目標に投下された②原爆の衝撃によって戦争を早く終結させた③それで日本本土決戦が回避され、50万~100万人のアメリカ人とそれ以上の日本人の命を救った④原爆はアメリカと日本にとって救世主である⑤原爆の熱と爆破が日本人を殺したのであり、放射能障害はほとんどない――と信じ込まされた。アメリカ流情報操作だ。

 もう1冊はその逆をいくようなノンフィクション、石井光太著『原爆――広島を復興させた人びと』(集英社)だ=写真左。

著者に記憶があった。東日本大震災直後、津波で亡くなった人々が仮の遺体安置所に運び込まれる。その遺体を検分した関係者などにインタビューした本『遺体――震災、津波の果てに』(新潮社、2011年10月刊)の著者でもある。

「遺体はどれも濡れていたり、湿っていたりしており、艶を失った髪がべっとりと白い皮膚に貼りついている。/しゃがんで顔をのぞき込んでみると、多くの遺体の口や鼻に黒い泥がつまっていた。目蓋の隙間に砂がこびりついていることもある」(釜石医師会長の話)。こういう細部に至る表現によって、ようやく津波の死者一人ひとりの像が立ち上がってきた。

『原爆』も基本的には同じようにインタビューを積み上げ、資料を読み込んで構成された。被爆直後の生々しい惨状の描写は『遺体』の表現に通じる。

 こちらは広島平和記念資料館の初代館長・長岡省吾を中心に、最初の広島公選市長・浜井信三、平和記念公園・資料館を設計した丹下健三、市職員で反核運動をリードした高橋昭博らをオムニバス形式で取り上げている。その根底にあるのは、<それぞれの立場はちがっていても、胸にある思いは同じだった。「広島を、かならず焦土から平和都市として生まれ変わらせる」>だろう。

 この2冊とは別に、若い人から教えられて、漫画家こうの史代の『夕凪の街 桜の国』(双葉社)を読んだ。その流れで『大田洋子集』(三一書房)を図書館から借りてきて読んでいる。

 私にとっての広島は、10代後半に読んだ原民喜の「夏の花」。これが原風景だ。被爆直後の広島の超現実的な光景を描いて、衝撃的だった。小2で遭遇した山の町の大火事の惨状がこれに重なった。東日本大震災の大津波、そのほかの自然災害にも通じる“地獄”だ。

 朝日新聞はきのう(7月30日)、連載「うねり――核兵器禁止条約から」を始めた。原爆に対するアメリカと日本の受け止めの違いから筆を起こしている。どこまで踏み込むか、ちょっと興味を持っている。

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