昭和7年度に時局匡救(きょうきゅう)事業として、夏井川河口部で改修工事が始まった。右岸・夏井村下大越(おおごえ)、左岸・草野村沢帯(ざわみき)から防波堤が設置された。
ところが、左岸河口で合流する横川(仁井田川)の改修工事が手つかずのため、最近、荒天のたびに河口が土砂で埋まり、河流が沢帯地内に逆流するようになった。思わぬ被害の発生に、地元区長ら代表数人が平土木監督所を訪れ、横川の改修促進を陳情した。
今の夏井川と横川の関係をあぶり出すような記事だが、昭和8年の前にも夏井川河口の閉塞問題は起きていた。大正2(1913)年に脱稿、同11年に刊行された『石城郡誌』にも、「時に奇と称すべきは旱天(かんてん)の水害なり(略)、川水漸(ようや)く涸(か)れ其(そ)の勢ひ海沙(かいさ)を排寡(はいか)する能(あた)はず。河口塞(ふさ)がつて通せず、……」とある。
夏井川は、水源から河口まで流路が67キロしかない中小河川だ。中小河川は吐き出す流量が少なく、海からの波浪などによって河口が閉塞しやすいという。その時代、その時代に陳情・要望―対策事業が繰り返されてきたものの、自然の威力はいつも人知を超える、という状況が続いている。
平成の世に入ってからは、支流・仁井田川の台風による河口開口、東日本大震災による地盤沈下などの影響を受けて、夏井川河口の閉塞と横川への逆流が常態化した。2年前の平成28年8月の豪雨時には、横川の水位が上昇し、沿川に避難勧告が発令された。
先日、夏井川水系河川改良促進期成同盟会の総会が開かれた。下流平坦部の区長らが出席した。毎年、総会後は福島県いわき建設事務所の課長が管内の夏井川の改修工事について説明する。
それによると、専門家による技術検討会で決定した方針に基づき、今年度(2018年度)から抜本的な治水対策を実施することになった。ポイントは①横川の築堤・護岸②夏井川左岸河口部の築堤・護岸③横川合流部の水門設置――などだ。
以前、といっても10年ほど前だが、横川との合流点に夏井川の水の逆流を遮る“石のダム”ができた。それで夏井川河口の閉塞を打破しようともくろんだのだろうが、あえなく失敗した。流れは石のダムを超えて滝のように横川へ逆流した。今度は鉄とコンクリートの門で流れを遮ろう、というわけだ。
夏井川河口の閉塞とそれに伴う横川沿川の浸水問題は、記録で知るかぎり100年に及ぶ。今回の復興予算が「百年の大計」となるかどうか。
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