2018年7月10日火曜日

昔野菜会報「ルート」第3号

 いわき昔野菜保存会の会報は、名前が「Root(ルート)」。命あるものすべての根源にある「根っこ」という意味と、複数形になることで「結びつき」や「ふるさと」を表す「ルーツ」という意味もこめた(会報第3号=写真下=の編集後記から)。
 原発震災前の平成22(2010)年、いわき市が伝統農産物アーカイブ事業を始める。いわきリエゾン企業組合が調査・フェスティバル開催・報告書作成などを受託した。6年で事業が打ち切りになったあとは、同組合を中心に、短期雇用でかかわった調査員や、昔野菜の生産者、興味を持つ市民などで構成するいわき昔野菜保存会が事業を継続している。会報発行もそのひとつだ。

 会報は、保存会の若いメンバーが取材・編集・デザインを担当している。「読ませる」だけでなく、「見せる」ことを意識したグラフィックなつくりが新鮮だ。年1回の発行で、先ごろ出た3号は、巻頭に「いわき昔野菜が、本になりました。」という記事を載せた。新聞の見出しなら「、」も「。」もない。広告デザインの世界で仕事をしてきたメンバーが担当しているからこそのタイトルだろう。

 元地方新聞記者の寺尾朱織(かおり)さんが4月下旬、会津若松市の歴史春秋社から単行本『今、なぜ種が問題なのか 食卓の野菜が!?』を出した(1500円+税)=写真左。

 本を紹介する会報の記事前文に、「F1品種と呼ばれる現在主流の野菜(種)と在来作物の違いを切り口に、いわき昔野菜に関わってきた『人』に焦点を当てた1冊」「『いわき昔野菜フェスティバル』をはじめ、何度もいわきを訪問、調査スタッフ、料理人、生産者に取材することで、『昔野菜のこれまでの軌跡』をあますところなく伝えて』いる、とある。そのライター寺尾さんへの特別インタビューだ。

 本は4章構成で、1章では『タネが危ない』(日本経済新聞出版社、2011年)で知られる野口勲さんに、F1品種と在来作物の違いや問題点などを聞いた。以下、2章・種を守る運動、3章・いわきの種の守り方、4章・種を受け継ぐ人たちと、いわきの在来作物に焦点を当てた内容になっている。いわき昔野菜の本、といわれるゆえんだ。
 
 わが家に毎月、書店の外商さんがお勧めの本とともに、岩波書店のPR誌「図書」を持ってくる。5月は『今、なぜ種が問題なのか 食卓の野菜が!?』だった。すぐ買って読んだ。

 会報のインタビューでは、ひんぱんにいわきへ足を運んだ理由が語られる。アーカイブ事業に携わった人間が種の魅力に引き込まれる、その心の動きに引かれたという。出会った生産者が魅力的だったともいう。なるほど、「種」がつなぐ「人」の物語をめざしたのか。
 
 いわきの元地域紙記者としては、いわきに関してアカを入れたくなる個所がいくつかある。が、テーマとしては今の時代にふさわしいものだろう。会報自体も、「種」と「人」を結ぶ、今までいわきになかったメディアといっていい。

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