2012年7月9日月曜日

日本海のヒラマサ


土曜日(7月7日)、私は知らなかったが近所の歯科医院の奥さんがヒラマサを持ってきた。三枚におろした一部で、刺し身になるという。その日の夜、いわき駅前で飲み会があった。翌日曜日、カミサンからヒラマサがあることを告げられた。でも、夏~秋の日曜日の夜は「カツ刺しで一杯」がわが家の定番。ヒラマサは月曜日、塩焼きにすることにした。

「マイ皿」を持っていつもの魚屋さんへ出かけたら――。「かつお」と書かれた立て看が店の前にない。シャッターも右半分が下りている。目が合った瞬間に若旦那から「すみません」と拝まれた。アハハハ、である(ヒラマサを食べろ、ということだ)。帰って、柳葉包丁でヒラマサの皮をそぎ、刺し身にした=写真

ヒラマサは、歯医者さんの友人が日本海で釣った。友人って、もしかして歯医者さん? その人が友人かどうかはわからないが、広野町で開業していた歯医者さんは海釣りが大好き。奥さんが年に一、二度、釣果のスズキを持ってきてくれた。三枚におろすワザを覚えたのはそのおかげだ。

広野の歯医者さんは3・11で自宅が大規模半壊になり、加えて原発事故で避難を余儀なくされた。奥さんと娘さんは東京に住み、ご主人は福島市で再開業した。“単身赴任”だ。「太平洋ではもう釣りができないのかなあ」と言っていたそうだ。日本海産の魚と聞いて、この広野の歯医者さんを思い出したのだった。

ヒラマサは夏が旬。白身で、スズキに似る。歯ごたえがあってさっぱりしている。が、こってりした赤身のカツオに慣れた人間には、いささか物足りない。やはり、いわきの夏はカツ刺しに限る。

小名浜にカツオが揚がるようになった。3度目の水揚げを報じるいわき民報の記事(6月30日)によれば、漁場は八丈島の北東沖。放射性物質検査で限界値未満だった。なんら問題はない。平年を越える高値で取引され、即日、県内のスーパー、小売店で販売された。

築地市場には卸さなかったという。同じ八丈島沖で漁をしながら、千葉で水揚げされたものはなんでもなくて、小名浜に水揚げされたものはがくんと安くなる。消費者ではなく、市場関係者や流通業者が「人々は不安に思って買わないだろう」と想定してしまうところから、価格暴落が起きる(関谷直也『風評被害』=光文新書)。理不尽な話だ。

野田首相が土曜日にいわきを訪れ、カツオの刺し身を食べたそうだ。風評被害が減るなら結構だが、どうなることやら。官邸前でデモをしたあと、いわきのカツ刺しで一杯、というふうに、風評被害に遭っている福島県を応援してくれないか。応援してくれるとさらに連帯感が増す――などと本気になって考える。

ついでながら、半月前、夏井川渓谷で白バイ・パトカー・黒塗り乗用車・白バイの一行を目撃した。そのことを6月28日付の小欄で紹介した。野田首相はいわきを訪問したあと、川内村を訪れたという。いわきから川内の中心地へ行くには、夏井川渓谷の県道小野・四倉線を利用するのが一番。あれは、してみると首相の川内行きの予行演習だったか。

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