2016年1月31日日曜日

柿の実が消えた

 1月10日に見たときには、まだいっぱい柿の実が残っていた。夏井川渓谷の広場にある柿の木だ。昔は水力発電所の社宅があった。発電所が無人化され、社宅も解体されて広場になった。その広場の南端に枝を広げている。
 平地で見かける柿の実よりは小さい。毎年(いや、そうかどうかは気にも留めていなかったので自信がないが)たくさん実をつける。まだまだ元気がいい。

 人間は柿の実の写真を撮るだけ。たまたま離れたところから望遠で柿の実を撮影していたら、エナガの群れが現れた。ちょこまかと動き回って柿の実をつついていた。県道沿いのソメイヨシノの木のまたに、なぜか柿の実が置いてあった。そんなことをするのはカラスにちがいない。

 冬も柿の実は残った――そう思っていたのだが。ほぼ3週間後に見ると、朱色の点々が消えていた=写真。みごとに黒ずんだ柿の皮しか残っていない。ソメイヨシノの木のまたの柿もなくなっていた。

 エナガがつつくのは目撃してわかった。ほかにもヒヨドリがいる。エナガ以外のカラ類もいる。ジョウビタキやツグミもいる。厳寒期に入って、いよいよエサが少なくなったのだろう。あっという間に食べつくされた。

 師走にカエデの紅葉が散って、渓谷の落葉樹は深い眠りに入った。常緑針葉樹のモミやアカマツ、山頂部のキタゴヨウなどのほかは、わが隠居の隣の柿の実だけが暖色を散りばめていた。それも消えて、渓谷はとうとう冬枯れた風景になった。

 柿の実もまた、ほかの落葉樹ととともに秋から冬にかけて渓谷の風景を彩る“細胞“の一部にはちがいない。その細胞は毎年更新される。V字谷のスカイラインも、10年前、20年前に比べたらずいぶん変わった。松の立ち枯れが目立つ。東日本大震災では至る所で岩盤が剥離した。そのあとも冬ははっきりわかる。

 暴風雨に見舞われた1月18日。県道小野四倉線で土砂崩れが発生し、いわき市小川町塩田字平石地内から田村郡小野町夏井地内まで、渓谷を中心に42キロ区間が全面通行止めになった。土砂崩れ現場は渓谷でもロックシェッドがあるあたりと思っていたら、違っていた。

 下流側から見ると、平野からV字谷に入ったばかりの小川・高崎地内のガケだった。コンクリート吹き付けをした上からワイヤネットを張っている。そのモルタルが土砂とともに一部剥落した。現場は片側通行になっている。

 岩盤そのものも風化してもろくなっているところがある。渓谷では、小さな落石はしょっちゅうだ。渓谷を構成する“細胞”は、草木、動物も含めて絶えず更新・交代・入れ替えが行われている。渓谷もまた生きている。

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